木曜日, 10月 14, 2004

PPMの再定義

エンジニアの視点から企業と市場との関係を考察している一連の論文を紹介します。

但し、各論文を実際に読むためには"理系"の知識が必要になります。
原典に当たるかたは覚悟して下さい。


日産の三浦氏による『市場と組織の共振に関する研究』がそれです。

結論としては、
「技術革新度が低く利益水準が良好なa社が、市場と共振する方向は、価格引き下げ(a12)、および、価格引き下げと業界技術水準での商品開発を合せた方向(a13)に限定」
「方策は、研究開発費や設備投資の増額と、価格引き下げであるが、その原資の確保のため、損益計算書(P/L)領域では、売上原価の低減、一般管理費の削減がある。また、必要に応じて、営業外収益の向上、資産売却などがあり、貸借対照表(B/S)領域では、新規設備投資に備えた、負債や資産の圧縮など」

一方、
「技術革新度が高く利益水準が良好なb社が、市場と共振する方向は、顧客ニーズ商品の開発(b21),顧客ニーズ商品と価格引き下げを合せた方向(b11)」
「方策は、損益計算書(P/L)領域では、研究開発費や設備投資の減額を価格引き下げに充てること、あるいは、売上原価の低減、一般管理費の削減がある。研究開発部門では人員構成の見直しも必要」

であるとします。


力学を用いた経営組織モデルの実用性に関する考察』では、

「PPMは、市場占有率と市場成長率によって事業のポジショニングを記述できるという優れた面を持つが、以下のような問題点も指摘されている[12]。
(1) 過度な単純化; 市場占有率と市場成長率による記述では単純化が過ぎ、事業の魅力度を表すのに不十分である。市場占有率のみを指標とすると、差別化戦略を記述できず、成長率の低下は成熟を示すが、実際には再成長する場合もあり得る。
(2) 新規事業の記述性; 全社的資源配分としては、「金のなる木」から「問題児」へ資金投入、あるいは、「金のなる木」から「研究開発」に資金投入することで「花形」事業を創設することが望ましいが、PPMには「研究開発」のセグメントが無い。」
とPPMの問題点を整理し、PPMを再定義しています(24/25)。
まず、
組織の速度=1 / 新商品投入間隔
={(研究開発費+設備投資)/ 売上高}**1/2

市場の速度= 組織の速度の業界平均
と定義。

また、
利益拠出率=( - 営業外損益 + 当期利益)/ (総資産×組織の速度)
と定義しています。

その上で、

「「研究開発」という業界のフロンティア的セグメントにあって、利益拠出率ζは低いが投資回収速度が速い(ω[組織の速度]/ωo[市場の速度]>1)事業を創設した後、図5-2の矢印(a)のように、事業規模拡大のために大きな追加投資を行い、このことによって、投資回収速度が減速し共振近傍(ω/ωo≒1)へ推移させる。それと同時に、大量生産によるコスト低減などにより、利益拠出率ζを上昇させ「花形」に変換させる。
 次の段階として、矢印(b)のように、追加投資を抑え投資回収速度を維持(ω[組織の速度]/ωo[市場の速度]≒1)しつつ、ブランドなどを背景としてプライスを上げることで利益拠出率ζを高め、「金のなる木」へと推移させる。」

速度の定義などに関しては異論や違和感もあると思います。
しかし、言葉のニュアンスを越えて再定義したPPMは

その他にも、氏は
○『正弦波周期運動を用いた組織内資金フローのモデル化
○『力の多角形を用いた組織内部ストックモデル
なる論考も発表されています。

水曜日, 10月 13, 2004

ICT貿易統計

UNCTADのTRAINSで2年前の世界各国の輸入データを閲覧出来る。
例えば、847141 (1996-) Other digital automatic data processing machines :-- Comprising in the same housing at least a central processing unit and an input and output unit, whether or not combined でデスクトップコンピュータの各国の輸入額を確かめることが出来る。

ちなみに、幾つかのコードを備忘的に記しておくと、
847010~847030、847090:電卓類
847130:携帯用コンピュータ
847141100:32ビット以上のデスクトップコンピュータ
847149:ワークステーション等
847150:デジタル処理装置
847180、847190:ルーター、スイッチ等

短期的には調整必至か

日立総研から『Global & IT 短期経済予測』が発表されています。
これによると、日本に関して、
「設備投資は、企業収益の増加が続いていることや、設備投資に先行する機械受注額(船舶・電力除く民需)が2004年4~6月期に同11.9%と大幅に増加していることから、年度内は好調と考えられるが、投資の一巡もあり伸び率は緩やかに鈍化する。」としています。
民間設備投資に関しては、農林中金の田口さつき氏の『収益性改善の真価が試される製造業』で企業の交易条件(=販売価格÷原材料・中間財価格)の低下が続いていること、交易条件(=販売価格÷原材料・中間財価格)の低下は営業利益に1年3ヶ月先行して動くという経験則に基づく「収益性の悪化は今後徐々に鮮明化するだろう」という指摘が気になります。
UFJ総研のかつてのレポートには、IT投資全体の動きを示す全産業供給指数・民間企業設備(情報関連)が経常利益(全産業)と連動して動くということが示されています。この経常利益(全産業)の先行指標が交易条件。その悪化は農林中金の田口さつき氏の指摘の通り。
念のために、全産業供給指数・民間企業設備(情報関連)を見てみると「鉱工業生産、第3次産業ともに緩やかな上昇傾向にあることなどから、全産業も基調としては緩やかな上昇傾向にあると考えられる」一方で、2003年10 - 12月の97.1をピークとして2004年1-3月は95.6、4-6月は94.8と漸減傾向。
このような点からすると、2005年初危機説に飛びつきたくなるところですが、「負債圧縮などの企業の経営改善努力により、企業の経営体質が強化されていることもあり、景気は失速には至らない見込み(日立総研)」であって、短期的には大きな落込みはないと考えるのが現在のところは妥当なところ。
但し、大和證券SMBCの白石氏による『ソフト・パッチでは収まらない公算増幅中』で指摘されている通り、「OECD景気先行指数6か月前比年率が早期に発していた景気減速サインが内閣府先行CI動向に明確に反映」され初めているという点。つまり、日本の景気は数ヶ月内に減速しますよという徴候も軽視することは出来ません。
この徴候は春先以来出ていたのですが、在庫が増加すると考えられていたのに、出荷の伸びによって在庫率が低下するという「在庫循環若返り現象」によって徴候は現実にはなりませんでした。
しかし、こうしたことは例外であって、再度の「在庫循環若返り現象」を見込むというのは現実的とは言い難いというのはもっともな指摘。
このレポートで素直に耳を傾けるべきは、8月の北米BBレシオ低下を材料として、2001年対比で早期在庫調整であるという一点でシリコンサイクルが無くなったとは断定できないという指摘でしょう。
なお、IT投資を含めて短期的には調整局面入りの可能性が高いと言えますが、1-2年という期間で見た場合には増加圧力が働いていることは設備投資循環で分かります。


※情報化関連投資には、「民間企業設備への供給がある通信用電線・ケーブル、通信用ケーブル光ファイバ製品、デジタル・フルカラー複写機、ボタン電話装置、ファクシミリ、電子交換機、デジタル伝送装置、固定通信装置、携帯電話、PHS、基地局通信装置、はん用コンピュータ、ミッドレンジコンピュータ、パーソナルコンピュータ、外部記憶装置、入出力装置、端末装置、固定電気通信業、移動電気通信業、受注ソフトウェア、ソフトウェアプロダクト」が含まれます。

火曜日, 10月 12, 2004

アウトソーシングの流れ


1)業界で需給ギャップ(供給過剰状態)が存在せず個別企業のみで需給ギャップ(供給過剰状態)が存在している場合と(2)業界全体としても需給ギャップ(供給過剰状態)が存在しているけれども経済全体では需給ギャップ(供給過剰状態)が存在していない場合はアウトソーシングが進むと考えられます。
しかし、(3)経済に満遍なく需給ギャップ(供給過剰状態)が存在している場合はアウトソーシングではなく企業内での業務プロセスの効率化が志向されるでしょう。
(3)==>(1)という経路を辿ったのが米国の1990年代ですが、日本では(3)==>(1)という状態に米国ほどには移行していないことを考えると米国のアウトソーシング市場の展開の公式が日本に直ちに当て嵌まるとは考えにくいと言えます。

日曜日, 10月 10, 2004

楽しい統計学

「マーケティングは従来、経験則や勘をベースに仕事を進めたり、テストすべき要素を腕力勝負でしらみつぶしに調査したり、と現実的には科学から一歩離れたところにあった。それもそのはず、必要な要素が多すぎて、どれが効果をもたらしているのかを特定することが困難だったからだ。しかし、統計的テクニックを取り入れると、驚くほど正確に顧客の心をつかむ手段を見つけやすくなる」(『マーケティングに統計学を活かす』DHBR 2002年6月号 )

「統計的テクニック」などというと『「引く」人も多い』のは確か。
そういう状況下で、向後研究室による
ハンバーガーショップで学ぶ楽しい統計学
はお薦め。
マンガちっくな構成になってはいますが「入門とはいえ、この内容をマスターすれば、大学の卒業論文・卒業研究で使われる統計手法のほとんどをカバー」という本格的な内容を伴っている。

[参考]
○森祐治・情報経済ブログ、『統計ソフトよりも基礎分析力を習得しておこう
○大西宏のマーケティング・エッセイ、『リサーチで決まる』
「現代のマーケティングは、リサーチ能力の競争の時代といっても過言ではありません。」
「リサーチというのは、マーケティング部門や調査会社だけの問題ではありません。会社や事業に携わる人たちすべてに、情報に対する感度、また本質を探る力が求められてきています。」