火曜日, 9月 28, 2004

静かな地殻変動

モルガン・スタンレーのウィークリー・インターナショナル・ブリーフィングの9月20日付記事はStephen Roach氏による『グローバル:生産性の最終段階?』というもの。
この中で氏はITは生産性上昇に貢献したが、その生産性上昇が限界に達しつつあるという指摘を具体的な数値を挙げて示している。

まず、

「情報処理機器およびソフトウエアは現時点で実質企業設備機器投資の58%を占め、1995年の35%から著しく増加」

したことでITそのものが飽和状態になっているとする。
しかし、こうした"飽和論"は狼少年的に繰り返されてきたので、これだけでは肯定するわけにはいかない。
とはいえ、

「生産性回復が「容易に達成される」局面がほぼ終了した可能性がある」

という指摘には耳を素直に傾ける必要がある。

次に、

「単位労働コストは2002、2003両年に平均0.75%減少した。少なくとも第2次世界大戦以降、労働コストが2年間でこれほど著しい減少を示したことはない」

という事実と

「2003年における企業設備投資のうち「純」投資の部分、すなわち投資総額から減価した資本の更新に係る支出を控除したものは、2000年のピークを約60%下回った」

つまり、米国企業は過激なコスト削減に走って、生産能力増強投資を行わなかったという事実を挙げて「コスト削減が限界に近づいた可能性」があるとする。

それでは、果たして生産性上昇トレンドの低下という現象は実際に発生しているのか。
米国労働統計局の統計によると、過去11四半期の企業の生産性上昇率の平均は年率4.5%。
2002年平均は4.4%、2003年も4.4%。
しかし、2004年第1四半期は3.7%、第2四半期は2.5%と上昇率が鈍化してきている。
([参照])

コスト削減による生産性上昇という効果は、こうした数値を見る限りでは剥落しつつあると言える。
そして、その代わりに売上を増加させるためのITというのが重要性を増してきている。見掛けの生産性上昇という意味では同じように映るけれども、このコスト削減のためのITと売上増加のためのITはかなり違う側面を持っている。

その典型的な例とも言えるのが
"Amazon to build, run Bombay Co. Web sites"
という、年商6億ドル、うちオンラインセールスが1700万ドルの家具雑貨販売チェーン、Bombay Co.のサイト構築およびホスティングをAmazonが受けるという記事。
Bombay Co.はIBMのユーザーだった点も重要だけれども、何と言っても、この契約が売上増加に応じてAmazonにフィーを払うという形態を採用している点。
サイトの最下部の" bombaycompany.com powered by Amazon Services"という一文の"powered by"の意味が違う。

IBMが唱えるオンデマンドは、こうした静かな地殻変動に耐え得るのだろうか。疑問の余地があるところ。

売上規模別IT投資(日本)

売上高(100万円) 企業数 区分 企業数 設備投資/企業(億円) 2003年設備投資総額 IT投資比率 IT投資額(億円)
30000- 1,922 大企業 5,174 71.5 369,920 0.26 95,025
50000- 1,506
100000- 1,746
3000- 10,205 中堅企業 39,117 4.0 156,443 0.26 40,187
4000- 6,373
5000- 4,415
6000- 3,132
7000- 2,321
8000- 1,892
9000- 1,513
10000- 6,905
20000- 2,361
-3000 1,190,109 小企業 1,190,109 0.2 233,685 0.26 60,029
総合計 1,234,400 760,048 0.26 195,240 2002年値
出所 帝国DB 帝国DB 政策投資銀行 独自推計 独自推計 独自推計

医療IT市場概算

厚生労働省「医療施設動態調査」によると平成16年4月末現在の病床数は病院だけで約163万。

全日病協会による病院情報システムのメンテナンス費用は年間平均1081万/100病床

○IT関連コスト調査結果
  (日本医療法人協会会員=回答78病院。03年10月実施)
  ●レセコン年間メンテナンス費用  731万4,000円(平均215床)
  ●院内LAN年間メンテナンス費用  77万7,000円(平均217床)
  ●院内PHS年間メンテナンス費用  69万2,000円(平均248床)
  ●診療報酬改定時レセコン組替え費用(100床あたり)
          2000年および2002年改定の平均 31万9,000円


○診療情報管理に必要なコスト
(日本診療録管理学会・平成14年度「カルテ等の診療情報の提供のための支援事業」報告書)
 ●診療情報管理部門人件費と診療情報管理経費
  99床以下   人件費(月額) 60万円強  経費(月額) 約13万円 
  100~399床            100万円強          約36万円
  400床以上             120万円強           約74万円

両者足しても大した金額にはなりません。

これに対して、
全国9.6万施設(病院+一般診療所)の 20 - 60(厚生労働省) %に電子カルテが普及するとすると、

9.6 × 0.2 = 1.92
9.6 × 0.6 = 5.76

1施設1億 ====> 2~6兆円程度 が最大値。
2003年度のPCの国内向け出荷額が1兆6,120億円ということから考えると、上記の両者を合わせた医療関連のIT市場の潜在的規模は決して小さくないということになります。

全世界ICT支出($M)

 ICT支出(a)GDP(b)(a)/(b)
19931,347,60925,459,3740.05293
19941,437,29026,283,0590.05469
19951,610,29627,010,3370.05962
19961,736,02827,919,2890.06218
19971,827,07228,925,6780.06316
19981,982,79329,636,8220.06690
19992,153,21130,525,8610.07054
20002,328,46931,737,2180.07337
20012,415,09832,102,9670.07523
20022,492,38132,709,1090.07620
20032,592,07633,572,0420.07721

出所:WITSA,世界銀行等より推計