水曜日, 3月 10, 2004

言葉から世界へ 

「チョムスキー(Avram Noam Chomsky)に関係する書籍を書店で見かけるようになったね。奥のほうに置かれていたのが前のそれなりに目立つ棚に移動されていたりしている。
多分、チョムスキーが9.11以後の米国の行動に対して異議を申し立てていることと関係しているんだろう。
そして、日本人の中にも、口に出しては言わないけれども何がしかの違和感を覚えているという人達がいる。
需要と供給が一致して棚を移動したというべきかな」
「チョムスキーの専門分野の言語学の本もそれなりに注目されているわね。
内容が難しいから門外漢というか、評論から関心を抱いた人が流れでチョムスキーの言語学の本にもというのは挫折のもとでしょうけど」
「チョムスキーは、人は生まれながらにして言葉を持っているという説を考えた人だね。
遺伝的に言葉を持っているといったわけだ。それ以前は、言葉というものは社会的に修得するものだって考えるのが普通だったから衝撃は大きかった。
チョムスキーは言語の分布地図のようなものを描くことの重要性を否定することはしないけれども、言葉を分類することそのものよりも、言葉とは何かということを理論的に考えていくことが言語学の使命だと思ったらしいね」
「人は遺伝的にそれぞれの言葉の素である『普遍文法』というものを持っているという考え方はデカルト流言語学なんて言われている。
つまり、機械論的に言語を細かく解剖して考えるというもの。
この『普遍文法』の存在は、例えば、赤ん坊が文法的に誤りの多い赤ちゃん言葉で話し掛けられながらも非常に短期間で完全な文法を修得してしまうことで証明されるとしている」
「そうした考え方を下敷きにして、特定の言語について正しいと考えられている文を作るような規則を作ろうという生成文法(generative grammar)という理論を発展させた。
発展させたんだけど、どうだろう。
彼の学問的企ては成功したと言えるのかな」
「現時点では生成文法(generative grammar)を応用して自動翻訳を行おうとした人工知能の試みは成功しているとは言えない。
でもね、現時点で判断することは早すぎるように思うわ。
それに、チョムスキー博士の業績は狭く言語学の中だけには留まらないでしょ。その思考体系は情報科学や認知科学などの流れに大きな影響を及ぼしたでしょ」
「チョムスキー博士は社会評論家としての側面もあるしね。
その点での評価は言語学における評価とは別にしないといけないだろうね。
9.11以後の言論やポルポト派に対する言動をもとにして全ての業績を否定してしまうという態度は慎まなければいけないだろうね。
でね、チョムスキーの社会評論に共感を覚えた人がチョムスキーの言語学にも親しめるかというと....」
「何その......は」


cover

『チョムスキー入門』
チョムスキー入門
ジョン・C. マーハ (著), John C. Maher (原著), Judy Groves (原著), 芦村 京 (翻訳), ジュディ グローヴス

This page is powered by Blogger. Isn't yours?