水曜日, 3月 10, 2004

生命はどこから 

「火星に水が存在した痕跡が見つかったけど、生物はどうなのかな。
地球の原始的な生命は海の中でアミノ酸が変化して誕生したんだっていう説があるしね。そして、1953年にはシカゴ大学の大学院生ミラー(SL.Miller)が原始地球を仮想的に再現した実験装置を使って、その中で放電を行うことでアミノ酸が生成することを確認している。
つまり、原始的な地球の大気からアミノ酸は自然現象によって作り出される。さらに、そのアミノ酸が海の中で変化を遂げて生命になったと考えられるわけだね」
「まず、生命というのは単なる物質ではなくてタンパク質や核酸などの有機物の集合体であること、エネルギーの出し入れを自分で行うことが出来ること、これは代謝活動ね、それから自己増殖可能なこと。こうした条件が満たされる物質が生命ということね。
その昔は、生命というのは自然に湧き出てくると考えるのが自然だった。これをフランスの化学者で細菌学者でもあったパスツール(Louis Pasteur:1822-95)が実験で覆した(1862年)。
こうやって通説を実験で覆すというのが科学の醍醐味よね」
「生命は自然に湧き出てくるものではなくて、生命は生命からしか生まれないとしたわけだね。
丁度同じ時期にイギリスの博物学者のダーウィン(Charles Darwin:1809-82)が生物は進化するんだっていう進化論を発表している。
ふむふむ。
生命は生命からしか生まれない。そして生命はその形を進化させる。
そうすると、現在の生命から遡っていって最初の生命はどこから生まれたんだってことになる。
生命は生命からしか生まれないというのがパスツール(Louis Pasteur:1822-95)の実験結果だからね」
「そこで、化学者のアレニウス(Arrhenius)は微細な細菌が太陽風を受けて宇宙を飛ぶという可能性を検討して細胞の核となる部分が宇宙から地球にやってきたんだっていう汎胞子説、いわゆるパンスペルミア[Panspermia]説を唱えた。
それじゃぁ、その細胞の核となる物質はどこでどうやって作られたのかってことになると振り出しに戻るけど」
「地球上で変化したか、宇宙のどこかで変化したかは別として、ともかくも生命がアミノ酸から変化を遂げて誕生したってことは間違いない。
1969年にオーストラリアのマーチソンに落下したマーチソン隕石からは水分とともにアミノ酸も含まれていることが確認されている。
そうすると、生命の核となる部分は原始的な地球で自然に生成されたものではなくて、宇宙から飛んできたものだっていう説も十分に成り立つ。
生命の核となる部分が宇宙からもたらされたということになると、生命が存在する可能性があるのは何も地球だけではないということの有力な証拠となるわけだね。
地球の環境が特殊だったために現在のように生命が誕生したんだってことにはならなくなる」
「そうね。
さらに、ミラーの実験にもあるように、アミノ酸は自然現象で発生するし、そのアミノ酸を100度のコバルトやモリブデンなどの金属イオンの濃度を1000から10万倍に高めた海水の中に入れて数週間おくと、これまた自然現象としてマリグラヌール(marigranule)と呼ばれるタンパク質に近い物質が生成されることが知られているわね」
「そのマリグラヌール(marigranule)っていうのは増殖に近い現象を起す。原始的な生命の祖先的な物質だね。
そうしたものが原始的な地球の大気の状態からでも自然現象で出来てしまう。
でも、同じようなものはターギッシュレイク隕石からも発見されている。
いづれにしても、水があれば生命が存在する条件の大きな一つが満たされると考えると火星で水の痕跡が見つかったということを聞くと、生命の痕跡はと期待せずにはおけないな」


cover

宇宙生物学への招待 文庫クセジュ
フランソワ ロラン (著), ジャン シュネデール (著), フロランス ロラン=セルソー (著), Fran Raulin (原著), Jean Schneider (原著), Florence Raulin‐Cerceau (原著), 唐牛 幸子 (翻訳)

This page is powered by Blogger. Isn't yours?