水曜日, 2月 25, 2004

見えざる手 

「ヨーロッパ原産のダンゴムシのオスとメスの比率は人間のようにほぼ1:1ではなくて、メスのほうが圧倒的に多いんだって。
そのために、メスは交尾を行うとオスの精子を貯めておいて、後で交尾なしに卵を産むらしいわ。
話はこれだけでは終わらないところが面白くて。なんと、このヨーロッパ原産のダンゴムシがメスばかりである理由というのは、ダンゴムシに寄生しているバクテリアによるというの」
「オスとメスの割合がオスに偏るとメスが生物的な適応として有利になるよね。メスが有利ということはメスが増えていくという結果に結びつくと考えることが出来る。逆にメスに偏っているとオスが生物学上有利になる。そうすると、今度はオスが増えていくことになる。
それで結局は偏った性比であっても1:1に最終的に落ち着いていくと言われている。
いわゆる『フィッシャーの理論』だけど。それが崩れている例があるということだね。
バクテリアの寄生が細胞レベルで作用して遺伝に影響を及ぼしているというのか。
それって面白いね」
「そういうことね。
でね、このバクテリアは母親から娘へとメスの間で感染していく。バクテリアにとってダンゴムシのオスは不用な存在に他ならないから。
そこで、バクテリアは宿り主であるダンゴムシの性比を変化させてメスが圧倒的に多いという状態にすることに成功したというわけ」
「ダンゴムシも生殖活動を行うことで増えていく動物であることには変わりないから、このようにメスばかりとなっては種の保存にとって好ましくないことこの上ない。そこで、メスはオスの精子を貯蓄できるという素晴らしい進化を遂げたわけだ。
また、絶妙なる均衡とでも呼ぶべきものが働いたのか、寄生するバクテリアはダンゴムシから全てのオスを追放してしまうということに僅かな所で失敗しているということになるね」
「こうした事実を知るとき、自然の持つ不思議さを思わずにはいられないわ。
メル・ギブソン主演の『サイン』のような感想になってしまうけど」


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遺伝学でわかった生き物のふしぎ
ジョン エイバイズ (著), John C. Avise (原著), 屋代 通子 (翻訳)

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サイン ― コレクターズ・エディション

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