木曜日, 2月 12, 2004

ゴシックは異国の香り 

「ゴシックっていうと何やら異国情緒的じゃない?」
「それはもっともな感想じゃないかと思うよ。
ローマ帝国が滅亡した後、ヨーロッパは暗黒の闇に包まれたって言われるでしょ。そして、この時代の美術も、ローマ風文化を意味するロマネスクに対して、ヨーロッパを席捲したゴート族の野蛮な文化という侮蔑の意味合いを込めたゴシックっていう呼び方がされた。
これは、もうそれ自体、ローマ文化こそがヨーロッパ文化の正統な流れであって、それ以外の流れは本流ではないんだっていう考え方が入っている」
「だから、確かにヨーロッパ生まれなのだけれども、現在にまで本流として流れているものとは違うという異国情緒のようなものを感じてしまうのね」
「まぁ。異国情緒というのは適切ではないのかもしれないけど。感じは分かるよ。非キリスト教的というような言われ方も場合によってはしたりする」
「非キリスト教的というのはどうかしら。だって、ほら、ゴシック美術っていうのは、ゴシック芸術じゃなくてゴシック美術って言う呼び方をするけど、教会建築を中心に花開いたんだから」
「おっしゃる通り。ローマ様式の教会建築はドームが特徴なのに対して、ゴシック建築の場合は、ドイツの美学者ヴォーリンガーのいうところの『垂直衝動』によって特徴付けられているね」
「そうそう。そこを忘れてはダメ。
ゴシック建築の文様は、そもそも、ギリシアにおける自然との親和関係とは正反対に、荒々しい自然と対峙してきた非ローマ民族の心を占めていた自然に対する畏怖を抽象化したものだって言われるんだからね」


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幻想の中世〈1〉ゴシック美術における古代と異国趣味 平凡社ライブラリー
ユルギス バルトルシャイティス (著), Jurgis Baltrusaitis (原著), 西野 嘉章 (翻訳)

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