
パン・パシフィック・インターナショナルホールディングス[PPIH]は, 安田隆夫によって1978年に東京都杉並区西荻窪で創業された流通企業であり, わずか18坪の雑貨店「泥棒市場」を原点とする.倒産品や処分品など, いわゆる「訳あり商品」を安価に仕入れて販売するという手法は, 資本力に乏しい創業期において合理的な戦略であったと同時に, その後のディスカウント業態の基礎となった.
創業初期に確立されたもう一つの特徴が深夜営業である.閉店後の品出し作業中にも顧客が訪れる状況から, 夜間需要の存在を見出し, 営業時間の延長へと踏み切った.この判断は後の主力業態である「ドン・キホーテ」の中核的特徴となる.また, 商品を通路や棚に隙間なく積み上げる「圧縮陳列」や, 手書きのPOPを多用する販売手法は, 視覚的な刺激と購買意欲を喚起する独自の売場演出として確立された.
1989年には東京都府中市に「ドン・キホーテ」1号店を開業し, 業態としての完成度を高めた.1990年代には多店舗展開を加速し, 1996年に株式を店頭公開, 1998年には東京証券取引所市場第2部へ上場した.深夜まで営業する利便性と娯楽性を兼ね備えた店舗は若年層を中心に支持を集め, 売上高は急速に拡大した.
2000年代に入ると, M&Aを通じた事業拡張が本格化する.2001年に経営破綻した長崎屋を事業譲受により傘下に収め, 2006年にはホームセンターのドイトを買収した.これにより, 従来の都市型ディスカウントストアに加え, ファミリー層向けの「MEGAドン・キホーテ」など新業態を展開し, 単なるディスカウントストアから総合流通グループへの転換が進んだ.
2010年代には経営体制の再編とグローバル化が進展する.2013年に会社分割によりグループ経営管理機能を分離したうえで持株会社「ドンキホーテホールディングス」へ商号変更し, 2019年には現在の「パン・パシフィック・インターナショナルホールディングス」へと改称した.また, 2018年にはユニー・ファミリーマートホールディングスとの経営統合によりユニーを傘下に収め, その後段階的に完全子会社化を完了した.これにより, 総合スーパー[GMS]事業をグループに取り込み, 業態のさらなる多様化が実現した.さらに2017年以降は「DON DON DONKI」ブランドによる海外展開を加速し, シンガポールを皮切りに東南アジア各国や北米・オセアニアにも進出している.
業績面では, 同社は30年以上にわたり増収増益を継続しており, 連結売上高は2兆円規模に達するなど, 日本の小売業の中でも際立った成長を遂げている.店舗数も国内外で700店規模へと拡大し, ディスカウント業態を核とするグローバル流通グループへと発展した.
本社所在地については, かつて東京都江戸川区葛西に本社機能を置いていた時期があり, 成長期を象徴する拠点の一つであった.その後の経営体制の変化やグループ再編に伴い本社機能は移転し, 現在は東京都目黒区に本社を置いている.
経営体制に関しては, 創業者である安田隆夫が長年にわたり経営の中心にあり, その意思決定が企業文化に強い影響を与えてきた.2015年に代表取締役会長兼CEOを退任し, 創業会長兼最高顧問としてアジア事業に注力する立場へ移行した.持株会社体制の確立と大規模グループ化の進展に伴い, 経営は個人依存から組織的運営へと移行しており, 専門経営陣によるガバナンスが整備されてきている.