
新光電気工業株式会社[Shinko Electric Industries Co., Ltd.,日本].
新光電気工業は1946年, 戦後の混乱期において, 富士電機研究部長野分所の施設・従業員を引き継ぐ形で発足した企業である.戦時中, 真空管の製造拠点が川崎から長野市に疎開され, 富士電機研究部長野分所が設置されていた.終戦により軍用品を製造していた同分所は閉鎖の危機に直面したが, 工場長だった光延丈喜夫氏が従業員約60名とその家族の生活を守るため, 設備と技術力を維持する目的で独立・創業を決意した.1946年2月に合資会社長野家庭電器再生所として設立され, 同年9月12日に新光電気工業株式会社へ改組・改称された.すなわち同社は独立創業企業ではなく, 富士電機の研究施設が母体となって分離・独立する形で成立した企業である.この成立経緯により, 創業当初から電機・電子分野における技術的蓄積と人材基盤を有していた点に特徴がある.
1950年代後半になると, 日本国内で半導体産業が勃興し始め, 新光電気工業は富士通との資本関係を軸に事業転換を進めた.1957年に富士通の資本参加を受けたことは大きな転機であり, この時期に半導体用部品, とりわけガラス端子や封止部材の量産体制を確立した.事業転換初期の売上規模はまだ限定的であったが, 半導体需要の拡大とともに売上高は着実に増加し, 電子部品メーカーとしての基盤が形成されたのである.
1960年代後半にはIC用リードフレームの量産に成功し, 1969年の出荷開始を契機として, 同社の売上高は半導体市況と連動して大きく伸長した.この段階で新光電気工業は富士通グループの中核電子部品メーカーとして位置づけられ, グループ内外の半導体メーカーに対する供給を通じて収益力を高めていった.
1980年代から1990年代にかけては, 高性能CPU向けの多層リードフレームや高密度パッケージの開発に注力し, 製品単価の上昇とともに利益水準が改善した.1996年に東京証券取引所第一部へ上場した時点では, 売上高・利益ともに安定成長局面にあり, 上場による資本調達力の向上は研究開発投資の拡大につながった.この頃には時価総額も電子部品メーカーとして一定の存在感を示す水準に達していた.
その後も長らく富士通グループの一員として事業を展開してきたが, 2010年代後半から資本関係の見直しが段階的に進められた.富士通は事業ポートフォリオ再編の一環として, 半導体関連事業からの撤退を進める中で, 新光電気工業株式の保有比率を引き下げる方針を明確化した.具体的には, 富士通は2018年3月に新光電気工業株式の一部を売却し, 持分法適用会社へと位置づけを変更した.この時点で富士通の持株比率は約20%台前半まで低下した.さらに2020年には追加売却を実施し, 持株比率を10%台前半にまで引き下げた.そして2022年から2023年にかけて段階的な売却を継続し, 2023年9月末時点で富士通の持株比率は5%を下回る水準となった.これにより新光電気工業は富士通の関連会社からも外れ, 資本関係上は完全に独立した上場企業となった.
この一連の資本関係解消は, 富士通側の事業再編戦略と, 新光電気工業側の顧客基盤多様化ニーズが合致した結果である.富士通は半導体事業を台湾のUMCなどに譲渡しており, グループ内での半導体関連資産の保有意義が低下していた.一方, 新光電気工業にとっては, 特定グループへの依存を脱却することで, 米国や台湾, 韓国など世界の主要半導体メーカーとの取引拡大が容易になるという戦略的メリットがあった.実際, 独立後は富士通以外の顧客からの売上比率が大幅に上昇し, 事業リスクの分散と収益基盤の強化が実現している.
近年では先端ロジック半導体やデータセンター向け需要の拡大, 特にAI関連半導体の需要急増を背景に業績が大きく伸長している.高性能GPUやHBM[High Bandwidth Memory]などの先端パッケージング技術への投資を積極化し, FCパッケージ[Flip Chip Package]やウェハレベルパッケージ[WLP]などの高付加価値製品の比率を高めた.2024年度には連結売上高が2,000億円規模に達し, 営業利益率も大幅に改善した.利益水準も高く, 時価総額は半導体関連企業として市場から注目される水準にある.
富士電機研究部長野分所を母体として始まり, 富士通グループの中核企業を経て, 2020年代に完全独立を果たし, グローバルな先端半導体パッケージ企業へと変貌した点に, 新光電気工業の歴史的特質がある.資本的独立は単なる株主構成の変化にとどまらず, 事業戦略の自由度向上と国際競争力強化をもたらす重要な転換点となった.
Vita brevis, ars longa. Omnia vincit Amor.