
 海信集団[Hisense Group Co.,Ltd.,中国].
 海信集団[Hisense Group Co.,Ltd.,中国].
海信集団は, 1969年9月に中国・山東省青島市で創業された家電・電子機器の大手メーカーであり, 現在では世界的な企業へと成長を遂げている.創業当初は「青島無線電二廠」として, 社員わずか10人余りでトランジスタラジオの製造を手掛けていた.名称の「第二ラジオ工場」は, 青島市内に既に存在していた「青島無線電一廠」との区別のためである.
1970年には山東省初の14型ブラウン管テレビを生産し, テレビ製造への第一歩を踏み出した.1978年には18型カラーテレビの生産を開始し, 中国におけるカラーテレビ普及期の需要に対応した.1979年2月には「青島電視機総厰」へと改組され, 国家認定カラーテレビ拠点生産工場の指定を受けた.この指定により, 国家からの支援と技術指導を受けられる体制が整い, 生産規模の拡大が可能となった.
1984年には松下電器産業[現・パナソニックホールディングス]からテレビ生産設備を導入し, 生産技術の近代化を推進した.この技術導入により, 製品の品質向上と生産効率の改善が実現し, 1985年には主要技術経済指標で中国国内のテレビメーカーで首位に立った.この時期, 海信は中国テレビ産業における主導的地位を確立しつつあった.
1992年, 周厚健[Zhou Houjian]氏が総経理[社長]に就任し, 経営体制の改革と企業体制の転換が進められた.周厚健氏のリーダーシップのもと, 海信は国有企業から市場志向型の現代企業へと変貌を遂げていく.1993年にはキャッシュレジスター生産を開始し, 青島通信設備有限会社を設立するなど, 事業の多角化を推進した.この多角化戦略は, 単一製品への依存を脱し, リスク分散と収益源の多様化を目指すものであった.
1994年には「海信集団有限公司[Hisense Group Co., Ltd.]」として法人化され, 青島海信グループが新社名で誕生した.この法人化により, 企業統治の透明性が向上し, 資本市場へのアクセスへの道が開かれた.1995年には海信光学通信, 海信不動産を設立し, 事業領域をさらに拡大した.1996年には南アフリカ海信発展有限会社を設立し, 海外市場への本格的な進出を開始した.この時期, 海信は中国国内市場での地位を固めつつ, グローバル企業への転換を模索していた.
1997年4月, 上場子会社である「青島海信電器股份有限公司[Qingdao Hisense Electric Co., Ltd.]」が上海証券取引所に上場を果たし[証券コード:600060], 資本市場からの資金調達や企業の透明性向上が実現した.同年, 海信変頻空調[海信の変周波数エアコン事業]も上場を果たした.この二つの上場により, 海信集団はテレビを中心とした映像機器事業とエアコンを中心とした白物家電事業を別々の上場企業として運営する体制を確立した.この分離上場戦略は, 各事業の専門性を高め, それぞれの市場で最適な経営判断を可能にすることを目的としていた.
1999年には「海信[Hisense]」ブランドが中国馳名商標[中国の著名商標]に認定され, ブランド価値の向上が公式に認められた.この認定は, 海信が中国を代表する家電ブランドとして広く認知されたことを示すものであった.
2000年には日立製作所とCDMA[符号分割多元接続]技術提携に合意し, 通信機器分野への参入を本格化させた.この提携により, 海信は携帯電話市場への進出基盤を構築した.2001年には韓国の大宇から南アフリカ工場を買収し, アフリカ市場での生産拠点を確保した.この買収により, 海信はアフリカ市場での現地生産体制を確立し, 輸送コストの削減と市場への迅速な対応が可能となった.2002年には住友商事との合弁会社であるサミット・ハイセンス株式会社を設立し, 日本市場への進出を開始した.これらの一連の国際展開により, 海信は中国国内企業から真のグローバル企業への変貌を遂げつつあった.
2000年代には液晶テレビやエアコン, 冷蔵庫などの家電製品の生産を強化し, 中国国内市場でのシェア拡大を図るとともに, 海外市場への進出も積極的に行った.特にアフリカや中東, 南米などの新興市場で販売網を拡大した.この時期, 中国の経済成長と所得向上により家電需要が急拡大し, 海信はこの需要の波に乗って急成長を遂げた.
2005年には, ハイセンスの商標を欧州各国で登録していたドイツのシーメンスと和解し, 海信集団がハイセンス商標を使用できるよう譲渡を受けた.それまで海信は欧州市場で自社ブランドを使用できない状況にあったが, この和解により欧州市場での事業展開が本格化した.
2006年末には, 海信集団にとって重要な転換点となる大型買収が実行された.海信集団は中国の著名な白物家電メーカーである科龍電器[Kelon, 広東省に本拠を置く冷蔵庫・エアコンメーカー]を買収し, 海信集団の白物家電資産を科龍電器に注入して統合した.これにより, 1997年に上場した海信変頻空調は独立した上場企業ではなくなり, 科龍電器に統合された.この統合により, 海信集団は白物家電事業を科龍電器[後の海信家電集団]に集約し, 青島海信電器は映像機器事業に特化する体制が確立された.科龍電器の買収により, 海信集団は「Kelon[科龍]」「Ronshen[容声]」という中国国内で高い認知度を持つブランドを獲得し, ブランドポートフォリオが大幅に拡充された.
2010年代にはスマートテレビや4K・8Kテレビ, AI搭載家電などの高付加価値製品の開発に注力し, 技術革新を進めた.従来の単機能家電から, インターネット接続機能を持つスマート家電への転換が加速した.また, 海外の有力ブランドとの提携や買収を通じてブランド力の強化とグローバル展開を加速させた.
2017年11月には, 東芝映像ソリューション[現・TVS REGZA]の株式95%を買収する契約を締結し, 日本市場における技術力とブランド力を獲得した.この買収により, 海信集団は日本の高度な映像技術, 特にレグザエンジンと呼ばれる画像処理技術を獲得し, 製品の技術力向上につながった.また, 日本国内での販売チャネルとブランド認知度も同時に獲得し, 日本市場での地位を大きく強化した.
2019年12月, 青島海信電器股份有限公司は社名を「海信視像科技股份有限公司[Hisense Visual Technology Co., Ltd.]」に変更した.この社名変更は, 従来のテレビ製造企業から, ディスプレイ製品, レーザーディスプレイ, スマートディスプレイ, 車載ディスプレイなど, より広範な映像技術分野を包含する企業への進化を反映したものである.同社は上海証券取引所に上場を継続しており[証券コード:600060], 中国本土市場のA株として取引されている.
2020年代にはスマートホームやIoT, AI技術を活用した製品群の開発を進め, デジタルトランスフォーメーションを推進するとともに, 省エネルギー技術やリサイクル可能な素材の使用など, 環境負荷の低減を目指した製品開発にも取り組んでいる.また,タイ東部に47バーツ[約1,400億円]を投じて冷蔵庫と洗濯機の工場を建設し2026年半ばには年間生産能力260万台の生産能力を目指している.この投資はタイ政府のタイランド4.0政策に基づく,タイのラヨーン県・チョンブリ県・チャチュンサオ県の3県を中心とした先進的な産業の集積と高度化を目指す東部経済回廊[EEC]計画の一環として位置づけられている.新工場の建設により,海信集団はタイ国内のみならず,ASEAN諸国やその他の国々への輸出拠点としての機能も強化される見込み.
Vita brevis, ars longa. Omnia vincit Amor.