
 TCL科技集団[TCL Technology Group Corporation,中国].
 TCL科技集団[TCL Technology Group Corporation,中国].
SZSE: 000100
時価総額[2025]:約120億-130億米ドル.
TCL科技集団は, 中国を代表する半導体ディスプレイおよび先端材料メーカーである.2019年の企業再編により, 旧TCL集団から技術集約型事業を継承する形で独立し, ディスプレイパネル製造, 半導体部品, 太陽光発電材料などの先端技術分野に特化した企業体制を確立した.
TCL科技集団の起源は1981年に遡る.同年, 広東省順徳市において「TTK家庭電器有限公司」として創業され, 当初はカセットテープレコーダーの製造を主力としていた.1980年代後半には電話機の生産に参入し, 1990年代にはテレビ製造へと事業を拡大した.1999年頃, TCL集団は深圳証券取引所に上場し, 証券コード000100を取得した.2000年代以降は積極的なM&A戦略を展開し, 2004年にはフランスのトムソン社のテレビ事業を買収して欧州市場への本格進出を果たし, 同年にアルカテル社の携帯電話事業も取得して通信機器分野での存在感を高めた.この時期, TCLは総合家電メーカーとして多角的な事業ポートフォリオを構築していった.
2010年代後半になると, TCLは事業構造の抜本的な見直しを迫られた.家電製品の製造・販売事業と, ディスプレイパネルや半導体などの技術集約型事業を同一企業体内で運営することは, 経営資源の配分や戦略的意思決定において非効率であるとの認識が高まった.そこで2019年, TCLは大規模な企業再編を実施し, もともとのTCL集団を二つの独立した企業体に分割した.一つは技術集約型事業を継承するTCL科技集団であり, もう一つは消費者向け家電製品事業を担当するTCL実業控股[TCL Industries Holdings]である.この再編により, TCL科技集団は半導体ディスプレイパネルとモジュールの製造・販売, 家電製品の販売支援, 太陽光発電材料と半導体部品の製造・販売を主要事業とする企業として再出発した.
TCL科技集団の中核事業は, 傘下の華星光電技術有限公司[China Star Optoelectronics Technology, CSOT]が担うディスプレイパネル製造である.CSOTは2009年に設立され, 液晶パネル, Mini LEDパネル, 有機EL[OLED]パネルの製造において世界的な競争力を持つ.特にテレビ用大型液晶パネル市場においては, 世界トップクラスのシェアを誇り, 中国国内では最大のディスプレイメーカーである.CSOTは深圳, 武漢, 恵州など中国各地に複数の生産拠点を持ち, 最先端の第11世代液晶パネル生産ラインを運営している.また, 近年ではMini LED技術やマイクロLED技術の開発にも注力し, 次世代ディスプレイ市場における競争力の強化を図っている.
TCL科技集団の事業構成は, 半導体ディスプレイパネルとモジュールの製造・販売が売上の約61%を占め, 家電製品の販売支援が約29.4%, 太陽光発電材料と半導体部品の製造・販売が約7.4%となっている.家電製品の販売事業については, 2019年の再編後もTCL科技集団の事業ポートフォリオに残されているが, 実際の製造と販売の主体はTCL実業控股傘下のTCL電子[TCL Electronics Holdings, 香港証券取引所上場, 証券コード:1070]である.TCL科技集団とTCL実業控股グループは, 再編後も強固なビジネス関係を維持しており, TCL電子はCSOTからディスプレイパネルを継続的に調達している.この垂直統合型のサプライチェーンは, 両社の競争力を支える重要な基盤となっている.
2020年代に入ると, TCL科技集団は家電事業分野においても新たな展開を見せた.広東奥馬氷箱[Guangdong Homa Appliances Co., Ltd.]との戦略的提携を深め, 最終的に同社を「Guangdong TCL Smart Home Appliances Co., Ltd.」として傘下に統合した.奥馬氷箱は冷蔵庫や冷凍庫の製造を主力とする企業であり, 特にOEM[相手先ブランド製造]による大量生産体制で急成長を遂げていた.TCL科技集団は奥馬氷箱の技術力と生産能力を取り込み, スマート冷蔵庫やAI制御技術を搭載した製品開発を加速させた.これにより, TCL科技集団は冷蔵機器分野における競争力を大幅に強化し, グローバル市場でのプレゼンスを向上させた.奥馬氷箱の持つ欧州・北米市場でのOEM供給ネットワークは, TCLブランドの冷蔵機器を国際市場に展開する上で重要な基盤となっている.
TCL科技集団の企業構造は複雑であり, 半導体ディスプレイ事業を担うCSOT, 太陽光発電材料を扱う中環半導体[Zhonghuan Semiconductor], 家電販売事業など, 複数の子会社と事業部門から構成されている.この多角的な事業ポートフォリオにより, TCL科技集団は市場変動に対する耐性を持ちつつ, 技術シナジーを活用した総合的な競争力を維持している.
2025年時点で, TCL科技集団はディスプレイパネル市場において世界的な地位を確立しており, 特に大型液晶パネルおよびMini LEDパネルの分野では技術的優位性を持つ.また, 中国政府の半導体産業育成政策の恩恵を受け, 国内外での生産能力拡大を続けている.今後は, 次世代ディスプレイ技術の開発, 車載ディスプレイ市場への本格参入, そして持続可能な製造プロセスの確立を通じて, グローバル市場における競争力をさらに強化していくことが期待される.
TCL科技集団の歩みは, 中国企業が単なる組立製造業者から, 技術開発能力と国際競争力を備えた先端技術企業へと進化する過程を象徴するものである.2019年の企業再編は, 事業の焦点を明確化し, 各事業分野での専門性を高めるための戦略的決断であり, 今後のさらなる成長の基盤となっている.
Vita brevis, ars longa. Omnia vincit Amor.