匯豊控股有限公司.HSBC Holdings plc.
HSBC HDは,世界有数の国際金融グループであり,その歴史は1865年に香港および上海で設立された「The Hongkong and Shanghai Banking Corporation」にまで遡る.創業者はスコットランド出身の銀行家トーマス・サザーランド[Sir Thomas Sutherland]であり,当時のアジアにおける貿易拡大を背景として,金融決済や信用供与を担う銀行の必要性が高まっていたことが設立の契機となった.創設にあたっては,中国・インド貿易に従事していたスコットランド系商社ジャーディン・マセソンやP&O汽船会社などが出資者として参画し,アジア貿易の金融インフラとしての役割を担うことが企図されていた.
創業当初から,同行は中国沿岸部や東南アジアを中心に,国際貿易を支える銀行業務を展開し,香港においては香港ドルの発券銀行として制度的・実務的に特権的な地位を築いた.1874年にはロンドンに支店を開設し,翌年にはサンフランシスコ,ニューヨークにも進出するなど,早期から世界規模のネットワーク構築を開始した.20世紀初頭には広範な国際ネットワークを構築し,植民地行政と経済活動の中枢機能を果たす存在となった.第二次世界大戦や中国本土の政変により一部の拠点を喪失したものの,戦後は香港を基盤に再建を進め,中東やアジア各地への拡張を継続した.
1970年代以降は欧米への進出を加速させ,1980年にはアメリカのマリン・ミッドランド銀行を買収し,1987年には完全子会社化を完了するなど,真の多国籍銀行へと変貌した.1991年には,グループ全体を統括する持株会社として「HSBC Holdings plc」がロンドンに設立され,これにより法的本社がイギリスに移された.同行はこの体制下で,ロンドン証券取引所,香港証券取引所,ニューヨーク証券取引所,ユーロネクスト・パリなど世界の主要な証券取引所に上場し,国際的な金融グループとしての基盤を確立した.
1990年代後半から2000年代初頭にかけては,大規模なM&Aによる地理的・業種的拡張を遂げた.1997年にはアルゼンチンのバンコ・ロベルに資本参加し,1999年にはブラジルのバンコ・ビメルカンティルを買収,2003年にはアメリカの住宅金融会社ハウスホールド・インターナショナルを買収するなど,中南米,北米,中東,アジアの複数市場において存在感を強めた.2008年の金融危機後には事業ポートフォリオの見直しを通じて,リスクの低減と収益性の強化を図った.特に2010年代後半以降は,アジア,特に中国本土および東南アジア市場への傾斜を一層強め,ウェルスマネジメントと法人金融分野への集中を進めている.
2020年代に入ると,HSBCは米国の個人銀行業務から撤退し,フランスの個人銀行業務も売却するなど,資本と経営資源をアジアに再配分する戦略を明確にした.2020年には全世界で約35,000人の人員削減計画を発表し,収益性の低い事業からの撤退と高成長が期待されるアジア市場への集中を加速している.香港および中国本土を中心とするビジネスは,現在のHSBCの収益と成長の中核を構成しており,地域金融からグローバルバンキング,資産管理に至るまで幅広い業務を展開している.
HSBCグループの2023年における総資産は約3兆米ドルを超え,従業員数は約22万人,世界60以上の国・地域で事業を展開している.主要事業は商業銀行業務,ウェルスマネジメント・パーソナルバンキング,グローバルバンキング・マーケッツ,グローバル・プライベートバンキングの4部門で構成されている.
なお,HSBC Holdings plcは中国語においては「匯豐控股有限公司」と表記され,香港市場および中華圏における正式名称として広く認知されている.また,その子会社である「香港上海滙豐銀行有限公司」は,香港特別行政区において通貨発券権を持つ3つの発券銀行の一つであり,HSBCグループのアジア戦略における中核的存在である.現在でもHSBCの全世界利益の約7割がアジア太平洋地域,特に香港・中国本土から生み出されており,同グループにとってアジア市場の重要性は極めて高い.
このように,HSBCは創業以来150年以上にわたり,国際金融システムの中で中心的な役割を果たしてきた.香港に起源を持ちつつも,現在ではロンドンに本社を置き,世界中で商業銀行業務,投資銀行業務,資産運用,保険などの包括的な金融サービスを展開している多国籍金融グループである.
Vita brevis, ars longa. Omnia vincit Amor.