RTX

RTX Corp.

RTX Corporationは,アメリカ合衆国バージニア州アーリントンに本拠を置く世界的な航空宇宙・防衛産業企業であり,その企業体としての起源は20世紀初頭にまで遡る.現在のRTXは,かつてのユナイテッド・テクノロジーズ[United Technologies Corporation, 以下UTC]とレイセオン・カンパニー[Raytheon Company]という二つの巨大企業が対等合併して成立した存在である.2020年に両社が統合され「レイセオン・テクノロジーズ[Raytheon Technologies]」として発足し,2023年7月に社名をRTX Corporationへと改称した.

ユナイテッド・テクノロジーズ[UTC]は,1929年に「ユナイテッド・エアクラフト・アンド・トランスポート・コーポレーション」として設立された.同社は航空機製造,エンジン製造,旅客輸送などの統合持株会社であったが,1934年の連邦政府による反トラスト政策により企業分割を余儀なくされ,「ユナイテッド・エアクラフト・コーポレーション」として再出発した.その後,1975年に「ユナイテッド・テクノロジーズ・コーポレーション」へと改称し,事業の多角化を本格化させた.航空機エンジンを中核としつつも,1960年代よりビル設備関連分野へ拡大し,Carrier[空調,1979年買収],Otis[エレベーター,1976年買収],Chubb[防火・警備,1983年買収・2003年売却]などを傘下に収めた.2000年代以降は航空宇宙分野への再集中戦略を進め,Pratt & WhitneyおよびUTC Aerospace Systemsを主軸とした構成に転換した.

Pratt & Whitneyは,1925年にフレデリック・レントシュラーによってコネチカット州ハートフォードで設立された航空エンジンメーカーである.創業早期から米海軍の要請で空冷エンジン「Wasp」を開発し,高性能エンジンとして注目された.第二次世界大戦期にはB‑17爆撃機やP‑47戦闘機などにエンジンを供給し,ジェット時代以降は軍用・民間双方でターボジェットおよびターボファンエンジンの開発を推進した.現在では,ボーイング787向けPW1000Gシリーズ,エアバスA320neoファミリー向けPW1100G‑JMなどのギヤード・ターボファン[GTF]エンジンで民間航空市場において競争力を保持し,軍用機ではF‑22向けF119,F‑35向けF135のエンジン供給でも主要な地位を占めている.

UTC Aerospace Systemsは,UTCが2012年にグッドリッチ[Goodrich Corporation]を約162億ドルで買収したことにより成立した事業部門である.同部門は航空機用電子機器,着陸装置,環境制御,油圧・空調システム,宇宙機器など多岐にわたるシステムを扱った.さらに2017年にロックウェル・コリンズ[Rockwell Collins]を約300億ドルで買収し,2018年にUTC Aerospace Systemsと統合して「コリンズ・エアロスペース[Collins Aerospace]」が発足した.この統合により,フライトデッキ,コックピット・ディスプレイ,通信,航法,センサー,および客室システムを含む航空機全体のシステム供給体制を確立した.

一方,レイセオン・カンパニーは1922年にローレンス・マーシャルらによって「アメリカン・アプライアンス・カンパニー」として設立された.当初は家庭用電気製品やラジオ用真空管を扱っていたが,1925年に社名をレイセオン・マニュファクチャリング・カンパニーに改称し,軍需分野への本格参入を開始した.第二次世界大戦期にはレーダーおよび誘導兵器で顕著な技術的優位性を獲得し,戦後は防衛ミサイルシステムに注力することで世界の防衛産業における中核的存在となった.代表製品にはパトリオット・ミサイル・システム,トマホーク巡航ミサイル,スタンダード・ミサイル[SMシリーズ],AIM‑120 AMRAAM空対空ミサイルなどがある.

2020年,UTCは非航空部門であるCarrierおよびOtisを株主への株式配当という形でスピンオフし,航空・防衛事業に特化した体制を整えたうえでレイセオン・カンパニーと対等合併を実施し,「レイセオン・テクノロジーズ」を発足させた.合併時の企業価値は約1,200億ドル規模であり,合併後の持株構成はUTC側株主が57%,レイセオン側株主が43%を保有する形となった.その結果,Pratt & Whitney,Collins Aerospace,Raytheon Intelligence & Space[RIS],Raytheon Missiles & Defense[RMD]の四本柱体制となり,航空エンジン,機上システム,防衛ミサイル,宇宙・情報システムの四分野を統合する巨大企業体が成立した.

2023年7月,社名をRTX Corporationへ改称した.この改称はブランド戦略上の刷新であり,航空宇宙・防衛技術を核とする企業アイデンティティの明確化を目的としたものであった.

RTXの2024年度年間売上高は約807億4,000万ドルであり,前年度から大幅な増収となった.この成長は三本柱事業,すなわちPratt & Whitney,Collins Aerospace,Raytheon Missiles & Defense / Raytheon Intelligence & Spaceにおける売上拡大が主導したものである.

RTXは現在,従業員約18万6,000人[2024年時点]を擁し,ニューヨーク証券取引所に上場[ティッカー:RTX],S&P 500およびダウ工業株30種平均の構成銘柄でもある.アメリカ国防総省,NASA,ボーイング,エアバスなどとの広範な取引を通じ,世界の安全保障と航空宇宙技術の中核を支えている.

近年,RTXは極超音速兵器,人工知能を活用した防衛システム,次世代航空機エンジン技術,宇宙防衛システムといった先端分野への投資を強化している.また,燃費効率の高いエンジンや持続可能な航空燃料[SAF]の開発など,サステナビリティとの整合も図っている.

技術革新,信頼性,長期契約に支えられたRTXの事業構造は,今後も世界の地政学的環境において中核的かつ持続的な役割を果たし続けるであろう.

Vita brevis, ars longa. Omnia vincit Amor.






















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