
長鑫科技集団(CXMT Corporation)は、中国安徽省合肥市に本拠を置く半導体メーカーであり、DRAMの設計、開発、製造、販売を一貫して手掛ける、中国大陸唯一の汎用DRAM量産能力を持つIDM(垂直統合型デバイスメーカー)グループの持株会社である。同社の中核事業会社は長鑫存儲技術(ChangXin Memory Technologies, Inc.)であり、DRAM事業の実質的な操業主体としての機能を担っている。なお、CXMTという略称は、事業子会社の英文名ChangXin Memory Technologiesの略称であると同時に、上場した親会社の英文名CXMT Corporationの略称でもあり、両社に共通して用いられている。長鑫の来歴は、中国政府が推進した半導体国産化政策と分かちがたく結びついており、地方政府主導の資本投入から出発し、10年余りで世界のDRAM市場における一角を占め、さらには上海証券取引所科創板における史上最大規模のIPOを実現するまでに成長した経緯は、中国半導体産業の国家戦略の縮図としてしばしば語られる。時価総額は約5,257億ドル(2026)。
長鑫の起源は2016年に遡る。2016年5月、合肥市は「506項目」と呼ばれる12インチDRAM工場の建設計画を固め、同年6月13日には後の長鑫科技集団の前身にあたる合肥睿力集成電路が設立された。設立資金は合肥市政府が国有資産監督管理委員会(SASAC)を通じて拠出したものであり、典型的な民間発の半導体スタートアップとは異なり、国家主導の制度的取り組みとして始まった点が特徴である。2017年3月には合肥における12インチDRAM生産拠点の第一期工事が着工し、同年11月16日には、DRAM事業を直接担う事業運営主体として長鑫存儲技術有限公司が正式に設立された。この間、韓国や台湾でDRAM製造の経験を積んだ技術者の招聘が進められ、技術基盤の構築が急ピッチで進んだ。2018年1月には合肥工場の建屋が完成して設備の搬入が始まり、同年7月には量産に向けた検証試作としてDDR4の試験生産が行われた。同じ2018年、それまで兆易創新(GigaDevice)の総経理を務めていた朱一明が同職を辞任し、長鑫の董事長に専任として就任、「黒字化するまで報酬を受け取らない」との誓約を掲げたことが広く知られている。また同年には、朱一明がオランダのASMLを訪問し、極端紫外線(EUV)露光装置の調達について協議したとも報じられている。
2019年9月、世界製造業大会の場で、長鑫存儲は自社設計・自社生産による8ギガビットDDR4製品の量産開始を発表した。これは中国大陸に自主的なDRAM生産能力が存在しなかった歴史に終止符を打つ出来事であり、同社はドイツの半導体メーカーであった旧キマンダ(Qimonda)などから特許ライセンスを取得することで、知的財産面での参入障壁を乗り越えた。同年11月には初の商用受注を獲得し、製品出荷が本格的に始まった。また同年、事業会社の社名はイノトロン・メモリー(Innotron Memory)から長鑫存儲技術(ChangXin Memory Technologies)へと変更されており、これは米中間の貿易摩擦に由来する技術関連の制裁リスクを回避する目的もあったと報じられている。2020年5月には持株会社である長鑫科技集団(当時、合肥睿力集成電路から改称済み)が長鑫存儲技術を完全子会社として傘下に収め、現在に続くグループとしての資本構成が整理された。同年6月には北京におけるDRAM新拠点の第一期計画が始動し、国家集成電路産業投資基金(通称「大基金」)第2期をはじめとする資金の導入が進んだ。同じ2020年以降、兆易創新(GigaDevice Innovation)からの戦略的出資も始まっている。
2022年から2025年にかけて、長鑫は製品と生産能力の両面で拡大を続けた。DDR5の量産移行、LPDDR5および同5Xの商用化が進み、低価格を武器にしたDDR3およびDDR4製品は市場シェアを急速に伸ばし、既存の国際大手メーカーにDDR5やHBM(広帯域メモリ)へのシフトを促す一因ともなった。北京拠点も量産段階へ移行し、月間生産能力は合肥拠点と合わせて約10万枚から28万枚(12インチウエハー換算)にまで拡大した。グループとしての組織再編も進み、2023年6月27日には長鑫科技集団が全体として株式会社(股份有限公司)に組織変更されている。財務面では2025年に至って初の通期黒字化を達成し、親会社株主に帰属する純利益は18億7500万元に達した。2026年第1四半期には四半期ベースの純利益が247億6200万元に急伸し、同年上半期の売上高は1100億元から1200億元、純利益は500億元から570億元の水準に達する見通しが示された。この急激な業績拡大の背景には、生成AIブームに伴う世界的なメモリ需要の逼迫と、それに連動した価格上昇があった。
長鑫の急成長は、米中間の技術覇権競争の焦点の一つともなった。2024年3月には米商務省産業安全保障局が長鑫を含む複数の中国企業を輸出管理対象の「エンティティリスト」に加える可能性を検討していると報じられた。同年12月2日、米商務省は帯域幅密度が一定基準を超えるHBM製品を輸出管理品目(ECCN 3A090.c)に新規指定し、同時に140社の中国企業をエンティティリストに追加した。この規制は結果として、当時DDR4やDDR5、LPDDR4Xおよび5X系列といった汎用DRAMに事業の主軸を置き、HBM分野ではほぼ実績を持たなかった長鑫を、汎用DRAM市場に事実上封じ込める形となった。2025年1月7日には、米国防総省が事前通知や意見陳述の機会を与えないまま、いわゆる「1260Hリスト」(中国軍事関連企業リスト)に長鑫を追加指定した。これに対し長鑫は、自社製品がJEDEC標準に基づく民生用DRAMであり、軍用半導体に求められる温度や梱包、試験、軍による監督などの要件を満たしておらず、軍需生産許可も保有していないと主張し、国防総省を相手取り提訴した。2026年2月13日には国防総省が長鑫を含む12社をリストから除外する方針を一時示したものの、同年6月8日に発表された最新版のリストでは、長鑫と長江存儲(YMTC)の2社のみが再び指定される事態となった。国防総省が示した理由は、長鑫が工業和信息化部(工信部)と直接の関係を持ち、国有資産監督管理委員会および工信部と間接的な関係を持つというものであった。この間、米アップルは長鑫のエンティティリスト入りを回避するよう政府に働きかける一方、米マイクロンは逆に即時のエンティティリスト指定を求めてロビー活動を行うなど、長鑫を巡る米企業間の利害対立も表面化した。
上場したのは事業子会社の長鑫存儲技術ではなく、持株会社である長鑫科技集団股份有限公司である。同社は2025年12月30日に上海証券取引所科創板への上場申請が受理され、2026年5月27日の上場委員会審議通過を経て登録申請を提出、同年6月5日には中国証券監督管理委員会が発行登録に同意する批復を下した。同年7月23日に上場日程が公告され、7月27日、証券コード688825として正式に上場を果たした。発行価格は1株あたり8.66元、発行後の総株本は約668億8,100万株(超過配分行使前)で、上場初日には初値49.5元と発行価格比471.59%高で寄り付き、終値時点の時価総額は3.28兆元に達してA株市場で時価総額首位となった。これは中芯国際(SMIC)に次ぐ科創板史上2番目の規模のIPOであり、2026年におけるA株市場最大の資金調達案件となった。調達資金295億元は生産ライン増強に固定的に充てられる計画であり、2028年までに月産能力50万枚(12インチウエハー換算)への到達が目標として掲げられている。
第1版:2026-09-18.