
ロイヤル・グループ(The Royal Group Co., Ltd.)は、カンボジアの首都プノンペンに本拠を置く投資・開発コングロマリットである。通信、銀行、メディア、保険、不動産、ホテル、航空、エネルギーなど多岐にわたる分野に事業を展開し、現在ではカンボジア最大級の民間企業グループのひとつに数えられる。同グループは非上場の同族経営企業であり、株式を公開市場に上場していない。創業者であり会長兼最高経営責任者を務めるのはキット・メン(Kith Meng)であり、同氏の個人史とグループの発展史は分かちがたく結びついている。
キット・メンは1968年、カンボジアのカンダル州に生まれた。中国系カンボジア人の実業家キット・ペン・イケの三男である。1975年、クメール・ルージュ政権の成立に伴う社会的混乱の中で一家は財産と出自を理由に迫害の対象となり、労働キャンプへ送られた。到着後まもなくメンとその兄弟は両親と引き離され、両親はその後、飢餓により死亡したとされる。ベトナムによるカンボジア侵攻の混乱の中、メンは兄のキット・ティエンとともにプノンペンを経てタイの難民キャンプへ逃れ、最終的にオーストラリアへ移住した。同国のキャンベラ大学で経済学を学んだ後、1980年代のうちにカンボジアへの関与を再開することとなる。
キット・メンは1989年、オーストラリアを拠点とする一般貿易会社としてロイヤル・カンボジア(Royal Cambodia Co Ltd)を設立した。国連やその他の国際機関向けに家具や機材を販売する事業で足がかりを築いた後、キヤノンおよびベル・ヘリコプターの独占販売契約、さらにモトローラ製品の販売代理権を獲得し、「カンボジア投資への玄関口」としての地位を確立していった。1990年には、ロイヤル・グループ・オブ・カンパニーズとしてカンボジア王国内に正式に法人化。
1990年代、ロイヤル・グループは国連カンボジア暫定統治機構(UNTAC)の統治下という特殊な時期に政府との取引関係を築き、事業基盤を急速に拡大した。この時期の中核となったのが通信分野への進出である。スウェーデン系の国際通信会社ミレコム・インターナショナル・セルラーS.A.(Millicom International Cellular S.A.)との合弁を通じてモバイテル(MobiTel)およびロイヤル・テレカムを設立。1996年にはカンボジア法人としてCamGSM(CamGSM Co., Ltd.)を設立。CamGSMは当初、ミレコムが61.5%、ロイヤル・グループが38.5%を出資する合弁会社であり、1998年からセルカード(Cellcard)のブランドで携帯電話サービスを開始。2009年、ロイヤル・グループはミレコム保有株を3億4600万米ドルで買収し、CamGSMをカンボジア資本100%の企業とした。この通信事業は、後年インターネット・サービス・プロバイダーのイーゼコム(Ezecom)の展開へとつながり、今日に至るまでグループの主要な収益源のひとつとなっている。
2000年から2010年にかけて、ロイヤル・グループは金融およびメディア分野への多角化を進めた。オーストラリア・ニュージーランド銀行グループ(ANZ)との提携によりANZロイヤル銀行を設立し、カンボジアの銀行セクターに本格的に参入した。保険分野では、後にカンボジア最大の国内資本系保険会社となるインフィニティ・インシュアランス(Infinity Insurance、現フォルテ・インシュアランス)を展開している。メディア事業においては、スウェーデンのモダン・タイムズ・グループとの協業を通じ、地上波UHFテレビ局カンボジアン・ブロードキャスティング・コーポレーションを設立し、CTNのブランドで放送を開始した。このほかMyTVやカンボジア初の24時間ニュース専門局CNCなど複数のテレビ局を運営し、2012年にはカンボジア初の全国デジタル地上波有料放送プラットフォームであるONE TVを立ち上げている。
2011年から2020年にかけて、ロイヤル・グループはモバイル決済サービスのウィング(Wing)を買収し、金融サービス分野での存在感を一段と高めた。またマリオット・インターナショナルとの提携によりリッツ・カールトンの6つ星ホテル及びブランド付き住宅の開発を発表するなど、高級ホテル・不動産開発事業にも進出している。航空分野では、フィリピンのPALホールディングスとの合弁でカンボジア・エアラインズを1997年に設立した実績があり(同社は2005年に一旦運航を停止し、2013年に再開したのち2014年に運航を終了した)、こうした挑戦的な事業展開もグループの特徴のひとつである。
2023年には、シンガポールのケッペル・エナジーとの間で、カンボジアで発電した再生可能エネルギー1ギガワットを同国へ送電する協定を締結し、エネルギー分野での国際的な事業展開を進めた。2024年10月には、コッコン州ボトゥム・サコール地区において総事業費13億4000万米ドル規模となる出力900メガワットの天然ガス火力発電所の起工式を行った。同発電所は450メガワットのコンバインドサイクル発電設備2基から構成され、稼働後は年間約6000ギガワット時の電力を供給し、カンボジアの総発電容量の18パーセントを占める見込みであるとされる。
カンボジア初の認可を受けた証券デジタル商品取引プラットフォームであるロイヤル・グループ・エクスチェンジ(RGX)を2024年に正式に稼働させ、金融サービスの新領域にも踏み出した。同年、プノンペン経済特区における輸出額は18億8000万米ドルを記録したと報じられており、製造業の集積地としての機能も担っている。
地元財閥チップ・モン・グループとの間で経済成長の促進を目的とした覚書を2025年4月に締結し、これを契機として同年、両グループを含む8つの有力企業・家系が共同出資する形で、プノンペンに総事業費3億米ドル規模の高度医療機関を新設する合弁事業が発足した。ロイヤル・グループはこの事業に23パーセントの出資比率で参画している。2026年1月には、カンポントム州政府との間で農工業団地の設立可能性を検討する覚書を締結し、地方における産業インフラ整備にも関与を広げている。
2026年2月には、傘下ブランドであるウィングショップ・マーケットおよびK'FAEの展開を発表し、小売・消費財分野へも進出した。通信、金融、エネルギー、医療にとどまらない事業の裾野の広がりがうかがえる。
第1版:2026-09-18.