Chevron Corp.
シェブロン[Chevron Corporation]は,アメリカ合衆国カリフォルニア州サンラモンに本社を置く世界有数の石油・ガス関連企業であり,エネルギー業界において140年以上の歴史を有す.また,エクソンモービル,BP,シェル,トタルエナジーズと並んで石油メジャーの一角を成している.現在のシェブロンは,スタンダード・オイル[Standard Oil]の分割を起源とする企業群のひとつとして,また,20世紀および21世紀を通じてアメリカのエネルギー政策と経済に大きな影響を与えてきた企業として知られている.
シェブロンの起源は1879年,カリフォルニア州で創業されたパシフィック・コースト・オイル・カンパニー[Pacific Coast Oil Company]に遡る.これは後にスタンダード・オイルによって買収され,1911年の反トラスト法[シャーマン法]に基づくスタンダード・オイルの分割により,スタンダード・オイル・オブ・カリフォルニア[Standard Oil of California, 通称SoCal]として独立することとなった.SoCalは,20世紀初頭にカリフォルニア州内や中東地域を中心に石油の探鉱と採掘を進め,アメリカ国外における石油権益の確保に積極的であった.特に1933年,サウジアラビア政府との間で石油開発契約を締結し,後のアラムコ[現・サウジアラムコ]の前身であるアラビア・アメリカン石油会社[Arabian American Oil Company]の設立に中心的役割を果たしたことは,国際石油産業における大きな転換点となった.この契約により,SoCalはサウジアラビア東部の広大な地域における石油開発権を獲得し,1938年にダンマンで商業的な石油発見に成功した.
1930年代から1970年代にかけて,SoCalはテキサコ[Texaco]と共同でカルテックス[Caltex]を設立し,アジア太平洋地域での石油精製・販売事業を展開した.また,1940年代には他の石油メジャーと共同でアラムコの運営に参画し,中東石油利権の確保を通じて急速な成長を遂げた.しかし,1970年代の石油危機と産油国による石油産業国有化の波により,サウジアラビアにおける権益は段階的に縮小され,1988年には完全に失った.
1984年,SoCalは同業のガルフ・オイル[Gulf Oil]を132億ドルで買収し,その際に社名を現在のシェブロン[Chevron Corporation]へと改称した.この買収は当時,アメリカの企業買収史上最大規模の取引のひとつであり,同社の資産と生産能力を大幅に拡大させた.ガルフ・オイルの買収により,シェブロンはメキシコ湾の深海油田開発技術や世界各地の精製施設を獲得し,真のグローバル企業としての基盤を固めた.
2001年には,テキサコ[Texaco]との362億ドルに及ぶ合併を実現し,アメリカ国内外の販売網を大幅に強化し,同時に天然ガスや化学事業にも領域を広げた.テキサコとの統合によって,シェブロンは一時的にChevronTexaco Corporationと社名を変更したが,2005年10月には再びChevron Corporationに戻している.この合併により,シェブロンは世界第2位の石油会社となり,特にアジア太平洋地域での事業基盤を大幅に強化した.
シェブロンは,上流[探鉱・開発・生産]から下流[精製・販売・マーケティング]に至るまで一貫した垂直統合型のビジネスモデルを採用しており,液化天然ガス[LNG],地熱発電,バイオ燃料,そして近年では水素エネルギーや二酸化炭素回収・利用・貯留[CCUS]技術への投資も実施している.地理的には北米,中東,アフリカ,アジア太平洋,南米,ヨーロッパにわたる広範な地域で事業を展開している.特にカザフスタンのテンギズ油田,オーストラリアのGorgonおよびWheatstone LNGプロジェクト,アメリカのパーミアン盆地でのシェールオイル開発,アンゴラでの深海油田開発は,シェブロンの収益構造において重要な役割を担っている.
パーミアン盆地については,シェブロンは同地域において最大級の事業者の一つとして位置づけられており,テキサス州西部からニューメキシコ州南東部にかけて約180万エーカーの鉱区を保有している.同社は2019年にアナダルコ・ペトロリアム買収の際に一部資産を取得するなど,パーミアン盆地での事業拡大を積極的に進めており,2023年時点で同地域からの日産量は約60万バレルに達している.パーミアン盆地での事業は,シェブロンの上流部門収益の重要な柱となっており,水平掘削技術と水圧破砕技術を組み合わせた効率的な開発により,低コストでの生産を実現している.
同社の2023年時点での日産石油換算生産量は約310万バレルに達し,世界第4位の規模を誇る.また,世界15カ国で約4,800のガソリンスタンドを運営し,主にシェブロン[Chevron]テキサコ[Texaco]カルテックス[Caltex]のブランドで展開している.アメリカ西海岸では最大の精製・販売ネットワークを有し,カリフォルニア州ではシェブロンブランドが,東海岸や南部ではテキサコブランドが主力となっている.技術面では,深海掘削技術,シェール開発技術,LNG液化技術において業界をリードする地位にある.
シェブロンはまた,温室効果ガス排出への対処やエネルギー転換の課題に対しても企業姿勢を打ち出しており,2028年までに低炭素技術に100億ドル以上を投資することを表明している.具体的には,カーボン・キャプチャー・アンド・ストレージ[CCS],水素エネルギー,再生可能燃料の分野への投資を推進している.2021年には,2050年までに自社運営資産からのカーボンニュートラル達成を目標として掲げた.ただし,依然として主要な収益源は化石燃料であり,エネルギー移行に対する対応については,気候変動政策を推進する国際機関や一部投資家から更なる取り組みの強化を求める声もある.
財務面においては,世界の原油価格に大きく影響される構造を持つものの,強固なバランスシートと効率的な資本配分を基盤とした安定した配当政策を維持してきた.同社は1912年以来連続して配当を支払い続けており,これは石油業界において屈指の記録である.2023年時点での時価総額は約2,900億ドルに達し,ダウ工業株30種平均の構成銘柄として,アメリカの産業界における象徴的存在のひとつでもある.
現在,シェブロンは世界約180カ国で事業を展開し,約47,000人の従業員を擁している.同社の研究開発投資は年間約8億ドルに上り,カリフォルニア州リッチモンドの技術センターを中心に,次世代エネルギー技術の開発に取り組んでいる.
以上のように,シェブロンはアメリカ資本主義の一翼を担う巨大企業であり,国内外のエネルギー市場において極めて重要な地位を占めている.歴史的にはスタンダード・オイルの流れを汲み,国際的には産油国との関係構築を通じて独自の地位を築き上げてきた.現在も依然として世界最大級の石油・ガス企業の一つとして,グローバルなエネルギー供給網の中核を担い続けており,エネルギー転換期における業界のリーダー的役割を果たすことが期待されている.
Vita brevis, ars longa. Omnia vincit Amor.