中電HD

中電控股有限公司.CLP Holdings Ltd.

中電控股[CLP Holdings Limited]は,香港に本拠を置く大手電力企業であり,アジア太平洋地域における主要なエネルギー供給者の一つである.社名の略称であるCLPは,旧称「China Light and Power Company Limited」に由来する.現在の公式英語名称は「CLP Holdings Limited」であるが,略称は創業時の呼称を踏襲している.同社は香港ハンセン指数の構成銘柄であり,香港証券取引所において長期にわたって安定した配当実績を誇る優良企業として認知されている.

中電控股の起源は,1901年に設立された「China Light and Power Company, Limited」にさかのぼる.設立者はイギリス系ユダヤ人実業家のイーライ・カドゥーリー[Elly Kadoorie]であり,当初は香港・九龍地区の電灯供給を主たる目的としていた.カドゥーリー家は上海を拠点とする有力商人一族であり,香港における電力事業への参入は同家の事業多角化戦略の一環であった.設立当初の資本金は25万香港ドルと比較的小規模であったが,当時の香港では都市化と経済活動の拡大が進行しており,電力需要は急速に高まることとなった.

20世紀初頭の香港における電力供給は,中電控股と香港電燈公司[The Hongkong Electric Company Limited,略称HKE]という二社体制で進められた.中電控股は主に九龍および新界地域を供給範囲とし,香港島をカバーする香港電燈とは地理的に分かれていた.この二社による地域分割体制は現在まで継続されており,香港の電力市場の特徴的な構造となっている.中電控股は1930年代から石炭火力発電所の建設を進め,徐々にその供給能力と設備を拡充していった.

第二次世界大戦および日本軍による占領期[1941-1945年]には,施設が大きな被害を受け,電力供給は著しく制限された.しかし,戦後復興においては急速な再建が図られ,1945年以降,香港経済は高度成長に向かい,繊維産業や製造業の発展に伴い,中電控股の供給責任はますます重くなった.1950年代には啓徳火力発電所[Hok Un Power Station]を拡張し,1970年代には青山火力発電所[Castle Peak Power Station]の建設に着手した.青山火力発電所は1980年代に完成し,当時アジア最大級の石炭火力発電所として同社の中核施設となった.

1979年には,香港政府と中国本土の合意に基づき,中電控股は中国・広東省との電力連系計画を開始し,結果として1990年代には中国大陸から香港への電力供給が本格化した.これにより中電控股は国際的な電力インフラの運営者としての性格を強めることとなった.特に,中国の大亜湾原子力発電所[Daya Bay Nuclear Power Station]への25%出資とその電力の香港への供給は,アジアにおける民間資本による原子力発電事業として画期的な試みであり,中電控股の象徴的事業となった.大亜湾原発からの電力は,香港の電力需要の約25%を占める重要な供給源となっている.

1990年代には事業の国際展開が本格化し,中国本土,オーストラリア,インド,タイなどへの投資を開始した.1998年には持株会社体制へ移行し,社名を「CLP Holdings Limited」へと変更した.これにより,従来の香港地域を主とした電力供給会社から,地域・事業多角化を進める国際エネルギー企業への変貌が加速した.

21世紀に入ってから,中電控股はインド,オーストラリア,中国本土,東南アジアなどに事業展開を拡大した.とりわけ,インドにおけるガス火力および再生可能エネルギー事業,オーストラリアにおける子会社EnergyAustralia を通じた電力小売・発電事業は,グループの売上と資産の大きな割合を占めるようになっている.EnergyAustraliaは2000年に買収された企業で,オーストラリア東部における主要な電力・ガス供給事業者として位置づけられている.

一方,環境規制の強化と気候変動対応の要請を背景に,中電控股は2000年代後半から再生可能エネルギーへの投資を拡大し,風力,太陽光,水力などの比率を高める方針を打ち出した.脱炭素戦略として,石炭火力の段階的廃止を明言し,2050年までにカーボンニュートラル[ネット・ゼロ・エミッション]を達成する目標を掲げている.具体的には,2030年までに石炭火力による発電量を2018年比で80%削減することを表明している.

中電控股は,香港証券取引所のメインボード市場に上場しており,株式コードは00002である.同社は香港の名門企業として地元経済界でも高い影響力を保持している.株主構成には,創業家であるカドゥーリー家[Kadoorie family]が経営する持株会社が約35%の持株を保有し,経営において長らく影響力を行使してきた.現在のカドゥーリー家の代表者であるマイケル・カドゥーリー[Michael Kadoorie]は同社の非執行会長[Non-Executive Chairman]を務めている.

現在,CLPグループは香港を拠点としながら,オーストラリア,中国本土,インド,東南アジア,台湾などで事業を展開し,総発電容量は約2万メガワットに達している.従業員数は約8,000人を数え,アジア太平洋地域における代表的な電力会社の一つとして確固たる地位を築いている.香港においては,政府との利潤管制協議[Scheme of Control Agreement]に基づく規制下で安定した事業運営を行っており,長期にわたって株主に対する安定配当を維持している.

中電控股は,その120年を超える歴史の中で,香港の経済発展と歩調を合わせながら発展を遂げ,今日ではアジアにおける持続可能なエネルギー供給体制の構築において中心的な役割を果たす企業へと変貌した.創業時の「China Light and Power」という名に象徴されるように,同社は一地域の照明供給を超えて,広域的なエネルギーインフラの担い手として現在に至っている.気候変動対応とエネルギー転換が求められる中,同社は伝統的な電力事業者から総合エネルギーサービス企業への転換を図りつつある.

Vita brevis, ars longa. Omnia vincit Amor.






















用語集 企業史     リライアンス・インダストリーズ     ファースト・パシフィック     エクソンモービル     中電HD     シェブロン