タタ・グループ[Tata Group,टाटा],ビルラ[Birla,बिरला]と並ぶインド3大財閥.
リライアンス・インダストリーズ[Reliance Industries Limited]は,インドに本拠を置く多国籍複合企業であり,20世紀後半以降のインド経済の変遷を象徴する民間企業である.その発祥は1960年代にさかのぼり,創業者ディルバイ・アンバニ[Dhirubhai Ambani,1932-12-28/2002-07-06]によって1966年にReliance Commercial Corporationとして設立されたことに端を発する.ただし,同社の公式記録によると,1966年にReliance Textiles Industries Pvt. Ltd.がマハラシュトラ州で設立され,同年グジャラート州ナローダに合成繊維工場を建設し,1973年5月8日にReliance Industries Limitedに改称されている.もともとは繊維貿易を生業としていたが,1970年代に綿糸や合成繊維の製造へと事業を拡大し,1977年にはムンバイ証券取引所に上場を果たした.
この上場は,インドの資本市場における画期的な出来事であり,同社は株式を一般大衆に開放した最初期の企業の一つであった.リライアンスのIPOは7倍の応募を集める大成功を収め,インドにおける「株式投資文化」の礎を築いたとされている.1980年代から1990年代にかけて,リライアンスは化学工業,石油化学,精製事業へと垂直統合を進め,次第にエネルギーセクターにおける巨大企業へと変貌していく.1999年にはインドで最初の民間主導による原油・天然ガスの探査・採掘プロジェクトを展開し,東部オフショアのクリシュナ・ゴダヴァリ・ベースンでガス田を発見するなど,資源開発にも進出した.
創業者ディルバイ・アンバニは2002年7月6日に死去し,その後継をめぐって息子のムケーシュ・アンバニとアニル・アンバニの兄弟間で激しい対立が生じた.2005年6月,母親のコキラベン・アンバニの仲裁により,グループは事業分割され,ムケーシュが石油・ガス・石油化学・精製事業を中心とするリライアンス・インダストリーズを継承.一方,アニルが通信・電力・金融サービス事業を受け継ぎ,リライアンス・ADA・グループ[Reliance ADA Group]を設立.この分割は当時インド史上最大規模の企業分割として注目を集めた.
ムケーシュ・アンバニの主導のもと,同社はさらにIT・通信分野へと踏み出し,2016年には通信子会社のリライアンス・ジオ[Reliance Jio]を通じてインド全国に4Gネットワークを展開し,通信インフラ革命を引き起こした.ジオは破格の低料金でデータ通信サービスを提供し,インドのデジタル化を加速させる原動力となった.このジオの成功によって,同社はテクノロジー企業としての側面を強め,Facebook[現Meta]やGoogleなどの国際的な巨大IT企業からの戦略的出資を受けるに至る.これらの投資により,リライアンスは小売業とデジタルサービスの統合を進め,Eコマースプラットフォームである JioMart の展開にも乗り出している.
21世紀に入ってからのリライアンスは,持続可能性,再生可能エネルギー,水素経済といった新分野への投資にも積極的であり,製造業中心の旧来型産業から脱却しようとする意思を鮮明にしている.2021年には,2035年までにカーボンニュートラルを達成するという野心的な目標を発表し,太陽光発電,風力発電,グリーン水素の大規模生産に向けた設備投資計画を公表している.製油所部門においては,ジャムナガルに世界最大規模の統合製油・石油化学複合施設を擁し,単なる資源加工企業ではなく,グローバル・バリューチェーンを押さえる産業基盤企業としての地位を確立している.
リライアンス・インダストリーズは,国家主導経済から市場主義経済へと舵を切ったインドの経済政策のなかで,民間の資本力と技術力,そして野心的な経営によって国の発展を民間側から先導してきた数少ない存在である.現在においてもインド最大の企業時価総額を誇り,インド経済の将来像を示す一つの指標として世界的にも注目されている.同社は現在,アジア最大の民間企業の一つであり,フォーチュン・グローバル500にもランクインしている.ムケーシュ・アンバニ自身もアジア有数の富豪として知られ,同社の成長はインドの経済発展と産業近代化の象徴的存在となっている.
Vita brevis, ars longa. Omnia vincit Amor.