ぶらぶら絵葉書

旧築地市場

築地市場の歴史は、江戸時代以来続いた日本橋魚河岸の歴史を受け継ぐものとして始まる。日本橋魚河岸は徳川家康の江戸入府後に形成され、以後長きにわたり江戸・東京の水産物流通の中心として発展した。あわせて、京橋にあった京橋青物市場も同様の経緯をたどり、両市場が後の築地市場のルーツとなった。しかし、1923(大正12)年の関東大震災によって両市場の施設は壊滅的な被害を受け、従来地での営業継続は困難となった。東京市は震災後の食料供給を維持するため、業者を築地地区へ移転させて仮営業を行わせる一方、近代的な中央卸売市場の建設計画を本格化させた。

当時の日本橋魚河岸は、江戸時代からの慣行に基づく民間市場であり、狭隘な敷地に多数の業者が密集して営業していたことから、衛生管理や防災、交通の面で近代都市にふさわしい市場への転換が求められていた。実は震災以前から移転構想自体は存在していたが、関係者の反対により進展していなかった経緯があり、震災はこの計画を一気に実現へと押し進める契機となった。1923年に制定された中央卸売市場法に基づき、東京市は公設市場として築地市場の整備を進めた。建設地に築地が選ばれたのは、東京湾に近く船舶による水運を利用しやすいことに加え、鉄道貨物輸送との接続にも優れ、大規模市場を建設できる十分な用地を確保できたためである。

1935(昭和10)年2月11日、東京市中央卸売市場築地本場が開場し、日本橋魚河岸・京橋青物市場の流通機能は正式に築地へ引き継がれた。この築地市場の建物が扇形・弧状に設計されたことはよく知られているが、これは単なる意匠上の工夫ではなく、鉄道貨物輸送を前提とした機能的な要請によるものであった。市場には汐留駅から分岐する貨物専用線(東京市場線)が引き込まれ、場内には「東京市場駅」が設置された。長編成の貨物列車をそのまま構内に入線させ、貨車から卸売場へ直接荷を下ろせるようにするためには、できるだけ長いプラットホームが必要とされたが、単純な方形の建物では敷地の一辺分の長さしか確保できない。そこで建物を弧状・扇形に設計することで敷地の二辺分に相当する長い線路とプラットホームを確保し、多数の貨車を同時に着けられる構造としたのである。全国各地から早朝に到着する鮮魚をそのままセリ場へ運び入れ、セリ後は再び各地へ発送するという効率的な物流動線が、この独特の建築形状によって実現された。国鉄(後のJR)はこの早朝のセリに間に合うよう貨物列車の運行時刻を調整しており、東京市場駅は1997年まで使用された。

第二次世界大戦中には空襲などの影響を受けながらも市場機能は維持され、戦後の食糧不足の時代には東京の食生活を支える重要な役割を果たした。高度経済成長期に入ると、冷蔵・冷凍技術やトラック輸送の発達によって全国各地や海外から多様な水産物が集まるようになり、築地市場は日本最大の水産物卸売市場としての地位を確立した。また、水産物だけでなく青果や加工食品なども取り扱い、日本の食文化を支える流通拠点として発展した。

1980年代以降になると、施設の老朽化や敷地の狭さが深刻な課題となった。鉄道貨物輸送が縮小しトラック輸送が主流となる中で、鉄道の引き込みを前提とした弧状の建物構造はかえって大型車両の動線確保には不向きとなり、物流効率の低下や冷蔵設備・衛生管理面での国際水準への対応の遅れが指摘されるようになった。一方で、築地市場はプロの料理人や仲卸業者だけでなく、国内外から多くの観光客が訪れる東京の名所としても知られるようになり、場外市場を含めて食文化の象徴的存在となった。

東京都はこうした課題を解決するため、豊洲地区への市場移転を計画した。当初は2016年11月の開場を予定していたが、土壌汚染対策や地下空間に関する問題が明らかとなり、安全性に対する懸念から開場は延期された。その後、追加調査や安全対策工事を経て、2018年10月11日に豊洲市場が開場し、築地市場は1935年の開場から83年にわたる歴史に幕を下ろした。

築地市場は卸売市場としての役割を終えたものの、その歴史的価値は現在も高く評価されている。市場の建物は解体されたが、場外市場は引き続き営業を続けており、多くの飲食店や専門店が集まる東京有数の食の街として国内外から多くの来訪者を迎えている。また、築地市場は単なる流通施設ではなく、日本橋魚河岸・京橋青物市場から続く江戸以来の市場文化を近代へ継承し、日本の水産物流通と食文化の発展を象徴した存在として、日本市場史において極めて重要な位置を占めている。なお、跡地の再開発計画においても、市場を象徴する「扇」の形が景観デザインのモチーフとして継承されるなど、築地の記憶は現在の街づくりにも受け継がれている。

東京都中央区築地5丁目2番1号@2014.


今日も街角をぶらりと散策.
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