

ゆとりーとライン
ゆとりーとラインは, 名古屋市北東部を走行する公共交通機関であり, 日本で初めて「ガイドウェイバスシステム」を導入し, 現在も国内唯一の営業運転路線である.2001年3月23日に開業し, 都市近郊における新たな中量輸送機関として整備されたものであり, 鉄道とバスの機能を統合した複合的交通システムとして位置づけられる.なお, 「ゆとりーとライン」という愛称は, 「ゆとり」と「ストリート」を組み合わせた造語であり, 渋滞の影響を受けずに快適な移動を実現するという特徴を反映したものである.
この路線の最大の特徴は, 「バスと鉄道の二重性」にある.起点である大曽根駅から小幡緑地駅までの区間では, 高架上に設けられた専用軌道を走行する.この区間は, 軌道法[大正13年施行]に基づく案内軌条式軌道として建設されており, 広義の鉄道として扱われる.一般道路交通の影響を受けないため, 高い定時性と速達性が確保されている.一方で, 小幡緑地駅以東では車両は高架を降り, そのままモードインターチェンジを経て一般道路へと移行し, 中志段味・高蔵寺駅方面などへ直通運行を行う.このように単一車両が軌道と道路の双方を連続的に走行する点において, 本路線は従来の鉄道やバスとは異なる運用形態を示している.高架区間には大曽根・ナゴヤドーム前矢田・砂田橋・守山・金屋・小幡緑地など9つの駅があり, 全便が各駅に停車する.
技術的中核を成すのがガイドウェイシステムである.専用軌道区間においては, 車両の前後に設置された案内輪が軌道脇のガイドレールに接触し, 進行方向を機械的に制御する.このため運転士はハンドル操作を行う必要がなく, いわゆる「手放し運転」が可能となる.これは自動運転とは異なり, 進路制御のみを機械化した半自動的な運転方式であるが, 狭幅な高架軌道においても安全かつ安定した高速走行[最高速度約60km/h]を実現している点に意義がある.なお, 平面区間においては通常のバスと同様に運転士がハンドルを操作する.
このシステムは, 都市交通における課題に対する一つの解として設計されている.すなわち, 鉄道ほどの建設コストをかけずに一定の輸送力と定時性を確保しつつ, バスの柔軟性を維持するという目的である.名古屋市守山区は名古屋市16区の中で唯一地下鉄が通じない地域であり, 特に志段味地区は開発途上の住宅地として将来的な人口増加が見込まれていたが, 鉄道新線を敷設するほどの需要には至らないという状況にあった.建設コストは地下鉄の約4分の1程度とされており, このような条件下においてガイドウェイバスは中間的輸送機関として導入されたのである.なお, 海外ではドイツやオーストラリアなどに先行事例があったが, 国際特許の問題や法制度の違いから, 日本独自のシステムとして開発された経緯がある.
運行面においては, 施設・軌道の保有・管理を名古屋ガイドウェイバス株式会社[第三セクター]が担い, 実際の運行は2009年10月以降, 全便が名古屋市交通局[名古屋市営バス]大森営業所に委託されている.運賃体系は高架区間と平面区間で異なり, 高架区間は区間制[1〜3区], 平面区間は市営バスと同額の均一運賃が適用される.両区間を通しで乗車する場合は合算額から一定額が割り引かれる.交通系ICカード[manacaなど]による乗車が可能であり, 他の公共交通機関との接続性も確保されている.また, 大曽根駅ではJR中央本線・名鉄瀬戸線・地下鉄名城線と接続しており, 都市中心部との結節点として機能している.
なお,将来に向けては,現行のガイドウェイバスシステムが日本唯一の特注仕様であるため,車両更新や増車が非常に厳しい状況となっている.そのため名古屋市は,案内軌条方式と軌道法適用を撤廃し,「高架道路上を走る自動運転BRT」とする計画を進めており,令和5・6年度[2023・2024年度]には借用した大型自動運転バスによる実証実験を実施している.
ゆとりーとラインは, その独自の構造と運用形態により, 日本の都市交通史において特異な位置を占める存在である.鉄道とバスという二つの体系の境界領域に位置しつつ, 両者の利点を選択的に統合したこのシステムは, 都市の規模や需要に応じた柔軟な交通計画の一例として評価されるべきものである.
愛知県名古屋市@2014-11.

今日も街角をぶらりと散策.
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