ぶらぶら絵葉書

旧第一銀行京都支店

旧第一銀行京都支店は, 1906年[明治39年]に辰野金吾・葛西萬司[辰野葛西建築事務所]の設計により竣工した煉瓦造二階建の近代銀行建築であった.第一銀行は旧第一国立銀行を母体とする民間金融機関であり, その京都支店は, 当時京都の商業・金融の中心地であった烏丸通三条の交差点南西角に位置していた.建築当初より日本銀行京都支店[現・京都文化博物館別館, 1906年竣工, 辰野金吾工事顧問・長野宇平治設計]と並び, 三条通を代表する近代建築群の一翼を形成し, 京都の都市景観における近代化の象徴的存在であった.

建物は辰野建築事務所の典型的作風を示す「辰野式煉瓦建築」の一例であり, 煉瓦造の外壁に石造の基壇を組み合わせ, ルネサンス様式の厳正な左右対称構成をとる.赤煉瓦に白色の石を帯状に配した特徴的な意匠は, 後に「辰野式」と呼ばれる様式の典型である.中央玄関上部のペディメント[三角破風]やアーチ窓の意匠, 角部に施されたピラスター[付け柱]は, 西洋古典主義建築の秩序と均衡を表現していた.一方で, 煉瓦の赤色を基調としながらも, 装飾を過度に用いず, 京都の歴史的市街地に調和する落ち着いた外観を備えていた点に, 辰野らの都市的感覚がよく示されていた.内部は銀行建築特有の空間構成をもち, 吹抜けの営業室を中心に, 応接室・金庫室・事務室が合理的に配置されていた.1919年[大正8年]には南側部分が増築された[清水組施工, 田辺淳吉設計].

第一銀行はのちに第一勧業銀行を経て, みずほ銀行へと発展した.建物も長らく同行の京都中央支店として使用されてきたが, 1999[平成11]年, 老朽化および耐震性の問題から惜しくも解体された.もっとも, この建築が三条通の近代景観形成に果たしてきた歴史的意義を重んじ, 京都市および関係機関は外観の忠実な再現を決定した.その結果, 2003[平成15]年, 煉瓦色のタイル貼りを用いた鉄骨鉄筋コンクリート造による「レプリカ建築」として再建され, 京都銀行三条支店として使用されてきた.外観意匠は当初設計図および写真資料をもとに精密に復元されており, 正面立面の構成・窓の形状・屋根の勾配に至るまで原形を忠実に再現している.

この再建は, 歴史的建築が物理的に失われた後も, その造形・空間的記憶・都市的文脈を継承しようとする試みとして高く評価されている.とりわけ, 三条通に連なる旧日本銀行京都支店[京都文化博物館別館, 重要文化財], 旧家邊徳時計店などとともに, 明治期の近代化都市としての京都の表情を今に伝える景観形成要素として重要である.旧第一銀行京都支店の再建は, 歴史的建築の保存が必ずしも「原建物の維持」に限られず, 記憶と意匠の継承という広義の保存概念の実践であることを示す好例であり, 京都における文化的都市再生の象徴的成果といえる.

京・烏丸三条南入ル饅頭屋@2012-04


今日も街角をぶらりと散策.
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