ぶらぶら絵葉書

弥栄会館

弥栄会館は, 1936[昭和11]年に竣工した鉄骨鉄筋コンクリート造・地上5階地下1階建ての建築である.設計は「劇場建築の名手」と呼ばれた木村得三郎, 施工は大林組が担当した.洋式でありながら, 各階に銅板瓦葺屋根を配し, 塔屋状の正面中央部には付庇や宝形造屋根が城郭の天守を思わせる造形で, 和風意匠の伝統を巧みに取り入れている.

当初, 同建物は祇園甲部歌舞練場敷地内における興行施設として祇園甲部組合により建立され, 花見小路に面した景観上のランドマークとして位置づけられた.屋根・外壁ともに和様の意匠を反映し, 「都市景観に調和するモダン建築」として, 京都における劇場建築・商業建築のひとつの頂点をなしている.館内の1階には「ギオンコーナー」が設けられ, 舞妓の京舞・狂言・雅楽・文楽・茶道・華道など伝統芸能をダイジェストで鑑賞できる施設として長く親しまれてきた.

構造および規模に関しては, 建築面積1,272平方メートル, 鉄骨鉄筋コンクリート造地上5階地下1階建て, 高さ31.5メートルという仕様が文化遺産データベースに記録されており, 塔屋状のボリュームが高さを確保しながらも, 周辺の町家群との調和を意図して設計されている.

2001[平成13]年8月28日には国の登録有形文化財[建造物]に指定され, 2011[平成23]年には京都市の歴史的風致形成建造物に指定された.しかし, 建物の老朽化や耐震性の問題が指摘され, 本来の用途である劇場を含む大部分が使用されなくなっていた.近年, 耐震性・用途の変化などを契機に保存活用プロジェクトが検討され, 2019年から帝国ホテルとの協議が進められ, 南面・西面の外壁および躯体の一部を保存しつつ, 「帝国ホテル 京都」としてホテル用途への転用が決定された.2022年4月に着工, 2025年10月竣工, 2026年春開業予定で, 地上7階・地下2階, 延床面積約10,804平方メートル, 客室数約55〜60室の高級ホテルとして生まれ変わる.

本プロジェクトでは, 京都市の景観条例[12メートル高度地区]の特例許可を取得し, 従来の高さ31.5メートルを維持したまま, 優れた形態および意匠を有し景観の向上に資するものとして, 京都市で初めて高さの最高限度を超える建築が認められた.何度も景観協議・審査会が重ねられ, 南面・西面の外壁および構造体を残し, 加えて北面・東面を含めて弥栄会館のシルエットを守ることで景観を継承し, 祇園の伝統的な町並みと調和するデザインとすることで許可が下りた.

弥栄会館は, 1930年代の京都における鉄骨鉄筋コンクリート造の大型興行建築の代表例であり, 和風意匠と近代構造技術とを折衷した設計思想を具現化している.さらに, 京都・祇園という伝統的都市舞台において, 近代建築が町並みとどのように共存できるかを示した事例として, 建築史的にも都市景観論的にも高い意義をもつ.また, 帝国ホテルとしては東京, 上高地, 大阪に次いで4軒目, 1996年の帝国ホテル大阪オープン以来30年ぶりの新規開業となり, 地域のランドマークとして愛されてきた弥栄会館の記憶を未来へ継承する文化財活用の好例として注目されている.

京・祇園町南側@2004-03


今日も街角をぶらりと散策.
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