

旧山口銀行京都支店
旧山口銀行京都支店[現:DEAN & DELUCA 京都]は, 大正期の都市商業建築であリ, 竣工は大正5[1916]年と伝えられ, 建築当初は第百四十八国立銀行に端を発する山口銀行の京都支店として建てられた.現在は飲食・物販店舗に転用されているが, 外観や主要意匠は良好に保存されており, 通行人に当時の都市景観を伝えている.
建築の設計者は辰野金吾の名を冠する辰野片岡建築事務所に帰されることが定着している.外観は赤煉瓦[小口積み風]と白い花崗岩の帯石を組み合わせた, いわゆる「辰野式」と呼ばれる様式的特徴を示す.立面は比較的簡潔で縦長窓が並び, 屋上に小さな塔屋状の構成を載せるなど, 欧化の意匠を和らげて都市の角地にふさわしい重厚さを与えている.こうした意匠は大正期における銀行建築の「威信性」と, 近代化した日本の都市空間における外来様式の受容と変容を端的に示す.
構造は煉瓦造を主とする2階建てであったとする記録が多く, 建築の素材・施工手法および細部のタイルや床材など当時の仕上げの多くが現存・保存されている.内部には竣工当初の床タイルや装飾細部が残され, 用途転用後もこれらの歴史的要素が活かされている点が, 建築史的な評価につながっている.
本建物の来歴としては, 山口銀行[およびその系統の変遷後に生じた合併・移管]に伴う用途変更を経て, 一時期は北國銀行の京都支店として用いられた時期があると伝えられる.今日では商業空間として一般に開放され, 地域の賑わいと歴史的景観の接点を担っている.
総じて, 旧山口銀行京都支店は大正期の銀行建築が備えていた形式的言語[赤煉瓦と花崗岩の帯石, 塔屋的構成, 内部の床タイルなど]を良好に伝える保存・活用事例であり, 京都における近代商業建築の受容と保存の課題を示す重要な建築である.
京・烏丸通蛸薬師下ル手洗水町@2024-01

今日も街角をぶらりと散策.
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