ぶらぶら絵葉書

大丸ヴィラ

大丸ヴィラ[旧下村正太郎邸]は, 昭和期の洋風邸宅である.竣工年は昭和7[1932]年であり, 百貨店経営者・下村正太郎氏の住宅であった.下村正太郎は大丸の初代社長であり, 下村家は呉服商「大文字屋」[後の大丸屋]の創業家であった.下村正太郎は家業を呉服店から百貨店へと転換させ, 近代的経営体制を確立した人物である.旧下村正太郎邸は「中道軒」と名付けられていた.

構造は鉄筋コンクリート造, 地上3階地下1階建てである.設計はウィリアム・メレル・ヴォーリズ[ヴォーリズ建築事務所], 施工は清水組[現清水建設]が担当した.建築様式はイギリス・チューダー様式を意図しており, 外観には急勾配の瓦屋根, 煉瓦積み煙突, 妻面に太い柱型を見せるハーフ・ティンバー[半木造]表現が取り入れられ, 鉄筋コンクリート躯体でありながら木製意匠を巧みに外装にあしらっている.外壁にはスクラッチタイル[泰山タイル]が貼られ, 邸宅としての格式を高めている.敷地内には洋館本体のほか南北の門・塀, パーゴラ, 車庫, 主庭園が整備され, 近代京都における洋風住宅のスケールと町並調和の在り方を示している.

内部構成も高度に意匠化・機能化されており, 1階には広間・居間・サンルーム・食堂が配置され, 居間にはステンドグラス, 木製パネル装飾, マントルピースを備えている.2階には寝室・書斎・子ども室・女中室などが整備され, 家具も米国キッチンジャー社製のものを含む設計時調達の指定家具66点が現存している.これにより, 邸宅建築の統一的空間設計が当時の意匠思想を反映している.

本邸宅は, 昭和初期の京都における洋館建築の保存状態が良好な作例であり, 伝統町家の町並みに洋風住宅がどのように共存・応答できるかを示す好例である.1996[平成8]年には京都市登録有形文化財に登録され, 邸宅の保存活用は近代住宅建築の価値を地域景観とともに継承するモデルとして注目される.

京・烏丸通丸太町上ル春日町@2024-01


今日も街角をぶらりと散策.
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