ぶらぶら絵葉書

中三デパート

中三デパートは,青森県を代表する老舗百貨店として,長年にわたり地域に愛され続けた商業施設である.1896[明治29]年6月,青森県五所川原市で呉服店「中三」として創業され,創業から128年にわたり地域商業の一翼を担った.戦後には百貨店業態へと転換し,北東北の主要都市に展開する地方百貨店の雄として成長した.

青森市への進出は1974年にJR青森駅前に青森店として開業したことに始まる.1981年に本店化され,青森中三本店として新町通りの象徴的存在となった.駅前という好立地を生かし,市民の日常的な買い物の場であると同時に,贈答品や衣料品購入の拠点として幅広い世代に親しまれた.建物は地上数階建てで,各階に衣料品,化粧品,雑貨,食品などの専門売り場を設置し,地下食品売り場では地元特産品から全国の銘菓まで豊富な品揃えを誇った.

事業拡大期には1962年に弘前店を開業し,1981年に盛岡店,1983年には二戸店を開業させるなど北東北の主要都市中心市街地に進出した.さらに1997年には秋田市のイオンモール秋田内に郊外型百貨店として秋田店を出店し,中心市街地立地に加え新しい商業形態に挑戦した.全盛期の1998年8月期には売上高約415億円を記録し,地方百貨店として高い業績を誇った.

しかし2000年代に入ると経営環境は急速に悪化した.大型ショッピングセンターとの競合,景気低迷による個人消費の落ち込み,東日本大震災による盛岡店地下での爆発事故などにより売上が減少し,五所川原店や秋田店を閉店せざるを得なくなった.特に盛岡店事故は休業を余儀なくされ,資金繰りの悪化に拍車をかけた.

2011年の経営破綻後,投資ファンドによる再建が試みられ,2016年10月6日にはMiKの傘下に入り経営再建が進められた.しかし,地方百貨店を取り巻く環境は厳しく,インターネット通販の拡大や消費行動の変化,さらに新型コロナウイルス感染症による消費低迷が追い打ちをかけた.

青森中三本店は建物の老朽化により2019年4月30日で休業.再開発計画により新たな建物への再出店が検討されたが,資金繰り悪化のため実現せず,跡地には2023年4月25日に複合商業施設 THREE が開業した.

最終的に2024年8月29日,中三は青森地裁弘前支部から破産手続き開始決定を受け,同日付で事業を停止した.弘前店も閉店し,従業員85人は全員解雇され,負債総額は約9億円に上った.地方百貨店の構造的課題や消費環境の変化が業績悪化の要因であり,親会社MiKも支援を打ち切った結果であった.

中三デパートの歴史は,地方都市における百貨店の栄枯盛衰を象徴するものである.創業から128年にわたる呉服店から百貨店への転換,地域密着型経営による成長,そして時代の変化に翻弄された衰退という軌跡は,青森市民の生活文化の一部として親しまれた存在の終焉を示しており,地方商業政策や中心市街地活性化を考える上で重要な示唆を与える事例である.

@2010-05


今日も街角をぶらりと散策.
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