繁栄稲荷
繁栄稲荷神社は,東京都江東区木場二丁目の大丸松坂屋百貨店本社ビル[大丸コアビル]の敷地内に鎮座する小社.江東区の指定文化財[建造物].創建は宝暦七[1757]年で,呉服商「大丸」の祖である下村彦右衛門正啓が,深川木場の別邸に伏見稲荷大社の分霊を勧請して祀ったのが始まりである.主祭神は宇迦之御魂大神である.
1911[明治44]年には実業家・根津嘉一郎の青山邸[現・根津美術館]に移され,同家の「嘉栄稲荷」として祀られた.この移座により,関東大震災と戦災を免れ,1961[昭和36]年に大丸へ返譲されて旧地近くに復し,さらに1989[平成元]年には大丸コアビルの建設に伴い,現在地へ移築されたという経緯をもつ.創建・移転・返譲・再移築の流れが明確で,近世から近代を通じて都市の開発や企業史とも交差する社である.
現在の本殿は,桁行三間・梁間二間の木造で,銅板葺入母屋造,正面に一間の向拝を付す.組物は舟肘木を用い,正・側面に縁を巡らし,後方に下屋を備える.内部は板敷・竿縁天井で,正面下屋部に神棚が張り出す構成をとる.意匠の基準となる虹梁絵様の検討から,建築年代は19世紀中頃と判断されている.江東区内に現存する木造神社建築は本社殿のみであり,地域における近世社殿技法の継承を示す資料性が高いと評価される点が特色である.
文化財指定の経緯としては,繁栄稲荷神社本殿が2009[平成21]年3月27日に江東区の文化財として登録され,2014[平成26]年4月4日に区指定文化財に格上げされた.敷地の石造鳥居[「下村店中奉納」銘]も併せて区の文化財として保護されている.さらに,神社には木造随神倚像二躯も江東区登録文化財として指定されており,総合的な文化財価値を有している.社殿は地域における唯一の木造社殿であることに加え,創建来の由緒と度重なる移築の履歴が良好に伝わる点で保存価値が高いとされる.
@2017-08
今日も街角をぶらりと散策.
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