「少年期のチャールズ1世の甲冑[収蔵番号:II.90]」は, 1616年頃にオランダで制作された一揃いであり, チャールズ1世[Charles I, 1600-11-19/1649-01-30]が15歳前後の時期に着用するために誂えられたものである.その後, この甲冑は王太子時代のチャールズ2世[Charles II, 1630-05-29/1685-02-06]に受け継がれ, チャールズ1世の娘メアリー・ヘンリエッタ・ステュアート[Mary Henrietta Stuart, 1631-11-04/1660-12-24]の子であるウィリアム3世[William III, 1650-11-14/1702-03-19]も, この甲冑をまとった姿で肖像画に描かれていることが確認されている.すなわち, チャールズ1世からチャールズ2世, さらにその孫世代であるウィリアム3世へと伝世した由緒正しい王家の甲冑である.
甲冑の成立は館のアーカイブが「オランダ製, 約1616年」と明記しており, 製作年代と産地はいずれも確実である.構成は, クローズド・ヘルメット, 二重のゴルジェ板, 胴[キュイラス], タセット, キュレット, ならびに腕甲・篭手[ガントレット], 脚甲を含む一式であり, 少年用ながら馬上戦闘を前提とした実用甲冑として設計されている.
本甲冑が騎乗用であることは, 付属・関連する馬具および馬鎧の存在からも裏づけられる.具体的には, II.90に属するロンダッシュ[円盾, 中央スパイクは後補], 関連する鞍金具[サドル・スティール], シャフロン[馬面甲]が別番号で管理されているほか, 同じくII.90に関連づけられた一対の鐙[ドイツ製, 約1590年]も伝わっている.これらの事実から, この装備一式は明確に騎手用の実戦的機能を備えていたことがわかる.
伝世の系譜については, 王立武具博物館のアーカイブにおいて「のちに王太子チャールズ[=チャールズ2世]によって着用された」と記されており, さらにウィリアム3世の肖像には「着用しているのは王立武具博物館所蔵のII.90である」と注記されている.したがって, この甲冑は少年期のチャールズ1世のために制作され, 次代のチャールズ2世へと継承され, 最終的にチャールズ1世の孫であるウィリアム3世の公的表象にも用いられたことが確実に確認できる.
保存と展示の現況については, 当該甲冑II.90はロンドン塔[ホワイト・タワー]で展示されており, 今日でも王家伝世甲冑の代表例として一般に公開されている.
なお, 甲冑には後世の補修や追加も認められる.たとえば脚甲[グリーヴ]に鋲留めされた拍車は「17世紀後半のイングランド製」として別途記録されており, 当初の製作時点ではなく後補であることが明確に区別されている.このように, オリジナル部分と後補部分の識別は学芸資料により確定されている.
王立武具博物館所蔵.
'Beauty is truth, truth beauty,'-that is all Ye know on earth, and all ye need to know.
John Keats,"Ode on a Grecian Urn"