民衆に示されるキリスト

バロック期の画家であるティエポロ(Giovanni Battista Tiepolo:1696-03-05 – 1770-03-27)の1760年頃の作品。

本作は、正式には『ピラト、キリストをユダヤの民衆に示す(エッケ・ホモ)』と題され、パリのルーヴル美術館デノン翼725室に所蔵されている宗教画である。

主題は新約聖書のヨハネ福音書に基づく場面であり、鞭打たれ茨の冠を被せられたキリストが、ローマ総督ピラトによって群衆の前に引き出され、「見よ、この人だ」(エッケ・ホモ)と告げられる瞬間を描いている。ティエポロはこの劇的な場面を、群衆の様々な反応(驚愕、憐憫、敵意、無関心)が交錯する人物群として構成し、画面の密度と動勢を高めている。柱廊や欄干、コリント式柱頭といった建築的要素が背景に配され、群衆劇の舞台としての奥行きを与えている点も特徴的。

様式的にはロココ期のヴェネツィア絵画の潤沢な筆致と明暗の劇的対比が融合しており、ティエポロ特有の軽やかで流動的な人物描写が随所に見られる。同時にカラヴァッジョ以来のバロック的な劇場性を継承しながらも、暴力性を直接的に強調するのではなく、群衆の心理劇として提示している点にティエポロの解釈の独自性が窺える。

本作の伝来については、19世紀にヴェネツィアの個人蔵とされた後、パリのシニョル家コレクションを経て、1878年のシニョル家売立、続いて1881年のマルタン・ド・ブールノンヴィル男爵家売立に出品された記録が残る。その後アンリ・ペレール、次いでその息子アンドレ・ペレールの手に渡り、1949年に用益権留保のかたちでルーヴル美術館へ寄贈され、1974年に正式に美術館の所蔵品として収蔵された。

ティエポロは18世紀ヴェネツィア絵画を代表する画家であり、天井画や大規模装飾画において特に名高いが、本作のような比較的小さな画面の宗教主題作品においても、その卓越した構成力と色彩感覚が遺憾なく発揮されている。


'Beauty is truth, truth beauty,'-that is all Ye know on earth, and all ye need to know.
John Keats,"Ode on a Grecian Urn"

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