花色日の丸威胴丸具足

花色日の丸威胴丸具足は, 桃山時代から江戸時代初期[16-17世紀]にかけて制作された甲冑で, 徳川家康所用の武具として確認されている.この甲冑は長らく豊臣秀吉着用の品と伝えられてきたが, 近年の調査研究により, 尾張徳川家伝来の『駿府御分物御道具帳』に記載があることが判明し, 実際には家康所用の品であったことが明らかとなった.

名称にある花色とは, 濃い藍色の糸で組まれた威[おどし:小札を編み合わせるための革や糸]を指し, 日の丸とは赤系統の威を大きく配して円形に表現した意匠を意味する.すなわち, 藍色を基調としながら随所に赤色を加え, 日の丸を象徴的に表現した華麗で格調高い胴丸具足である.

胴丸は平安時代後期に登場し, 鎌倉から室町にかけて武士に広く用いられた甲冑形式である.大鎧よりも軽快で, 身体をぐるりと巻き付けるように着用する構造を持ち, 活動性に優れるため実戦で多用された.家康所用の花色日の丸威胴丸は, 桃山時代特有の華麗な色彩感覚と, 室町以来の伝統的な胴丸形式とを兼ね備えた点に特徴がある.

藍色の花色威は, 落ち着きと威厳を示す色彩であり, そこに赤色の日の丸を配することで強い視覚的効果を生み出している.この配色は戦場において遠方からの識別を容易にし, 大将の存在感を強調する実用的効果も有していた.戦国大名にとって甲冑の色彩や威の組み合わせは単なる装飾ではなく, 権威や武威を表現する象徴であった.

この具足は明治維新まで名古屋城に収められ, 徳川家の重宝として伝世された.家康は実戦用の質実な甲冑を好んだ一方で, 将軍家の権威を示すため意匠性の高い具足も備えていた.本具足もその一例であり, 現在は徳川美術館に収蔵されている.家康の威信を体現する象徴的武具として, また日本甲冑史を代表する優品として高く評価されている.


'Beauty is truth, truth beauty,'-that is all Ye know on earth, and all ye need to know.
John Keats,"Ode on a Grecian Urn"

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