板絵著色神像 伝素盞嗚尊

八重垣神社蔵の板絵著色神像は, 平安時代の寛平5[893]年に制作された神像絵画で, 重要文化財に指定されている貴重な作品である.板絵三面には, 素盞嗚尊, 稲田姫命, 天照大神, 市杵嶋姫命, 脚摩乳命, 手摩乳命の六神が描かれており, 神社の祭礼や儀式に用いられたと考えられている.八重垣神社は, 素盞嗚尊と櫛稲田姫命の物語に由来する縁結びの神社として知られ, 当該絵画は神話の登場人物や神々を視覚的に伝える役割を果たしている.

絵画は鮮やかな彩色と繊細な筆致が特徴で, 神像の表情や装束の細部まで緻密に描かれている.これは, 神聖視された対象に対する平安時代の絵師の敬意と高度な技術の表れである.宮廷画家・巨勢金岡の筆と伝えられ, 神社の障壁画としては日本最古級の作品とされる.現在は本殿ではなく宝物収蔵庫で保存・公開され, 彩色状態も良好である.作品は, 出雲神話の神々, 特に素盞嗚尊と稲田姫命を中心とした物語を描写し, 参拝者に神話の内容を視覚的に伝える役割を担った.

素盞嗚尊[すさのおのみこと]は, 日本神話における重要な神で, 海や嵐を司る荒ぶる神として描かれることが多いが, 同時に英雄的な性格も持つ.出雲神話では, 天照大神の弟として高天原を追放された後, 出雲に下り, 稲田姫命[櫛稲田姫]と結婚する.素盞嗚尊は, ヤマタノオロチを退治して稲田姫を救う伝説でも知られ, 勇敢で秩序を回復する神として信仰される.また, 八重垣神社では, 素盞嗚尊は縁結びや災厄除けの神として尊崇され, 地域住民や参拝者に広く信仰されている.