キングスゲート

キングスゲート[Kingsgate Consolidated Limited,豪].
時価総額[2025]:約6.5億米ドル.


キングスゲートは, オーストラリア証券取引所[ASX]に上場する金銀鉱山の開発・生産企業である.本社をオーストラリアに置き, 太平洋沿岸地域を主な活動領域として探査・開発・操業を展開してきた.同社の中核資産は, タイ北部のピチット県[Phichit Province]および隣接するペッチャブーン県[Phetchabun Province]にまたがって位置するチャトリー金鉱[Chatree Gold Mine]であり, 完全子会社であるアカラ・リソーシズ[Akara Resources Public Company Limited]を通して金鉱開発・操業を行い,長年にわたり同社の主要な収益源となってきた.

チャトリー金鉱は2001年11月に商業生産を開始し, タイ初にして最大の近代的金鉱山として操業を続けた.2001年から2017年までに約180万オンスの金と約1,000万オンス超の銀を生産し, キングスゲートを中堅金生産企業としての地位に押し上げた.鉱山はタイのピチット県とペチャブーン県にまたがる地域に位置し, バンコクから北へ約280kmの場所にある.チャトリー鉱山は, チャトリー・サウス鉱区[2001年生産開始]とチャトリー・ノース鉱区[2008年生産開始]から構成され, 大規模・低品位の露天掘り金鉱山として開発された.操業期間中, 同社は低コストでの生産体制を確立し, 採掘・処理技術を洗練させてきた.

しかし, 2016年5月にタイ政府は国内のすべての金採掘を2016年末までに終了すると発表した.これは環境懸念や地域住民からの健康被害の訴えを背景としたもので, 地元住民は鉱山からの廃棄物が農作物や家畜を汚染したと主張していた.この決定により, チャトリー鉱山は2017年1月1日に休止・維持管理状態に入った.キングスゲートはこの措置に異議を唱え, タイ=オーストラリア自由貿易協定[FTA]に基づき国際法的手続きを開始した.同社は投資家対国家の紛争解決メカニズムを通じて補償を請求し, 並行して保険請求や国際仲裁といったプロセスも展開した.この紛争は, 地域住民の環境・健康懸念, 政府の鉱業政策変更, そして国際投資ルールに基づく補償請求が複雑に絡み合った事例となった.

長期にわたる交渉と法的手続きを経て, チャトリー鉱山は2023年第1四半期に正式に再稼働した.2022年には鉱山再開に向けた主要な承認が得られ, 2023年には鉱業リースと冶金処理ライセンスが付与された.2023年は同鉱山にとって極めて重要な年となり, 6年間の休止期間を経ての再開だけでなく, 約1億5千万豪ドル相当の投資委員会[Board of Investment]からのインセンティブの獲得と新たな探鉱ライセンス区域へのアクセス権取得も実現した.再稼働に際しては, 2つの処理プラント[Plant #1とPlant #2]の改修が実施され, 合計年間処理能力は500万トン超とされている.2024年6月にはPlant #1での初の金の注入が行われ, 4本のドーレ・バーが生産された.2025年2月には再稼働後100回目の金の注入という重要なマイルストーンを達成し, 操業は順調に進展している.2024年の金採掘量は5万オンスであったが,2025年の金採掘量目標を前年比50%増の7万5,000オンスに設定し採掘エリアの拡大を申請.将来的には,年間定常生産量として10万-12万オンスの金生産を目標としている.

同社の事業運営は, 鉱業企業として典型的な段階的プロセス——探査→資源評価→開発→生産——に沿っている.採掘・処理技術については鉱床特性に応じて選択され, チャトリーでは露天掘り採掘と, カーボン・イン・リーチ[CIL]などの薬液浸出プロセスが採用されている.長年の操業実績により確立された採掘・処理フローは, 低コスト生産という同社の競争優位性の源泉となってきた.鉱床学的には, チャトリー鉱床はタイ中部のLoei-Phetchabun火山帯に位置する低硫化浅熱水性金・銀鉱床であり, 鉱化作用は晩期ペルム紀から前期三畳紀の火山砕屑岩および火山起源堆積岩に胚胎している.

チャトリー以外にも, キングスゲートは複数の資産を保有している.チリ北部アタカマ地方のマリクンガ・ベルトに位置するヌエバ・エスペランサ[Nueva Esperanza]金・銀プロジェクトは, 同社の重要な開発資産である.このプロジェクトはフィージビリティ前段階にあり, アルケロス, チンベロス, テテリータという複数の鉱床から構成され, 2039年まで確保された水利権を含む主要なインフラと承認を有している.ヌエバ・エスペランサは世界有数の未開発銀鉱床とされている.同社は2009年にアルケロス鉱床を取得し, 2011年にチンベロスとテテリータ[エスペランサ]鉱床を取得してプロジェクトを統合した.2020年には環境影響評価の承認を取得し, 開発に向けた準備が整っている.なお, キングスゲートは2021年にカナダのTDG Gold社へのヌエバ・エスペランサ売却に関する意向書に署名したが, TDG側が自社プロジェクトでの探査結果が予想を上回ったため, 取引は完了せず, 同プロジェクトはキングスゲートの資産として保持され, 最適化研究が進められている.加えて, キングスゲートはオーストラリア国内でも複数の探鉱案件を保有しており, 資源の裾野を広げている.これらの案件は将来の成長オプションとして位置づけられている.

Vita brevis, ars longa. Omnia vincit Amor.






















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