

比留間歯科医院
比留間歯科医院は, 1929[昭和4]年に建てられた木造二階建ての洋風建築であり, 現在も診療所として使用されている現役の歴史的建物である.設計は比留間氏による自家設計, 施工は早川氏が担当したと記録されている.都市部において戦前の木造洋館が今日まで用途を保ちながら残存する例は稀であり, 地域の生活の連続性を示す貴重な存在となっている.
外観は急勾配の切妻屋根を戴く山荘風の佇まいを特徴とし, 下見板張りの外壁は深い緑を帯びた落ち着いた色調でまとめられている.白く縁取られた建具や窓枠との対比が鮮明で, 簡素でありながらも端正な印象を与える.正面二階には複数の上げ下げ窓が並び, 縦長窓が生み出すリズムが外観全体のアクセントとなっている.これらの窓は採光・通風の機能を満たすと同時に, 当時の都市住宅における洋風意匠の受容を端的に表している.
玄関には小さなポーチが設けられ, 三角形の庇がかかる.その下には赤いガラスの球形照明が掲げられており, 医院としての親しみやすさを漂わせる細部意匠として注目される.さらに, 「比留間歯科醫院」の旧字体右書きの文字板が欠損することなく健在である点も, 所有者による丁寧な維持管理の姿勢を示している.こうした装飾的要素は過度に主張することなく, 木造洋館としての素朴な魅力を引き立てている.
立地する浅草通りは交通量の多い幹線道路で, 周囲には戦後以降のビル建築が建ち並ぶ.その中にあって, この医院は戦前の街路景観の記憶を今日に伝える希少な構成要素となっている.1920〜30年代の下町では, 住宅兼診療所の形式が一般に見られたが, 現存例の多くは建替えにより失われており, 本建物は当時の生活文化を具体的に示す数少ない遺構である.
また, この建物は建築当初から地域の人々に認識され, 2007年時点で記録されているなど, 早くから歴史的建造物としての価値が認められてきた.長年にわたり現役の医院として維持され続けてきた背景には, 建物自体の堅実な構法と, 所有者・利用者の継続的な維持管理の積み重ねがある.
今日では, 周囲の環境が大きく変化したにもかかわらず, 建築当初の姿をよくとどめており, 戦前の小規模洋館の特徴を実地に確認できる稀有な例である.地域の歴史と都市の変遷を読み解くうえで, この比留間歯科医院は重要な手がかりを与える建築である.
東京・台東区東上野@2025-01

今日も街角をぶらりと散策.
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