ぶらぶら絵葉書

伊勢源

伊勢源は, 川越市仲町3-20の川越大正浪漫夢通りに所在する地酒とはかり味噌の専門店である.同店の建築は, 伝統的な川越町家の典型的形態を呈しており, 川越の歴史的都市景観を構成する重要な建造物のひとつとして位置づけられる.

当建築の最大の特徴は, 南側の老舗うなぎ店「小川菊」との境界に設けられたレンガ塀である.このレンガ塀は, 明治期以降に普及した西洋建築技術の影響を受けたもので, 伝統的な日本建築と近代建築技術の融合を示す貴重な事例である.レンガという素材の選択は, 防火性能の向上を意図したものであり, 明治26年の川越大火の教訓が建築に反映された具体的な表れといえる.

北側の壁面については, 土で塗りこめられた構造となっており, これも防火に対する配慮が明確に表れている.土壁は日本の伝統的な防火工法のひとつであり, 厚く塗り重ねることで延焼を防ぐ効果を持つ.この北壁の構造は, 隣接建物からの類焼を防ぐための実用的な配慮であるとともに, 川越町家における防火建築の発展過程を物語る重要な建築要素である.

川越の建造物群は, 1893[明治26]年3月17日に養寿院門前から出火した川越大火によって市街地の多くを焼失した後に形成された.この大火災を契機として, 川越商人は豪壮な耐火建築である蔵造りの商家を競って建設し, 現在に残る独特の景観を作り上げた.伊勢源の建築も, こうした防火意識の高まりの中で建設されたものであり, レンガ塀と土壁という二つの防火工法を併用することで, 火災に対する多重の防護を実現している.

建物の基本構造は, 間口が狭く奥行きの深い「鰻の寝床」と呼ばれる典型的な町家の形式を踏襲している.これは限られた敷地を有効活用する江戸時代以来の都市建築の知恵を体現したものであり, 川越の商業地区における伝統的な建築類型である.店舗部分は街路に面して配置され, 奥に向かって住居部分や倉庫部分が続く構成となっている.

伊勢源が位置する大正浪漫夢通りは, 川越一番街として現在でも残る歴史的な商店街の一部であり, 札の辻から仲町の交差点の間で伝統的な町並みを見ることができる重要な区域である.この通りには, 蔵造りの伝統建築に加えて, 大正時代から昭和初期にかけての洋風建築や和洋折衷建築も点在しており, 日本の近代化過程における建築様式の変遷を辿ることができる貴重な都市空間となっている.

川越の歴史的建造物群は, 城跡・神社・寺院・旧跡とともに関東地方では神奈川県鎌倉市, 栃木県日光市に次ぐ文化財の集積地となっている.戦災や震災を免れたため, 江戸時代から明治時代にかけての建築様式が連続的に保存されており, 都市全体が一体的な歴史的景観を形成している.

川越@2015-01


今日も街角をぶらりと散策.
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