禁酒会館
岡山禁酒会館は,岡山県岡山市北区丸の内一丁目に所在する歴史的建造物である.1923年[大正12年]2月25日,「禁酒の常時宣伝機関」として岡山県禁酒同盟により築かれ,2002年6月25日に国の登録有形文化財に指定された.
建設の背景には,大戦景気後の戦後恐慌など大正期の社会不安があり,その救済策の一つとして禁酒運動家の成瀬才吉と河本正二が発起し,資産家の綱島長次郎を設立委員長として建設が進められた.当初は大衆食堂・集会場・宿泊施設を備え,講演会や展示会などが頻繁に開催された.1924年には日本国民禁酒同盟大会,1925年には約850人を集めた禁酒展覧会が開かれたほか,1928年には禁酒食によるクリスマスランチやコーヒー出張サービスが始まり,児童文学作家の坪田譲治も執筆に利用した記録がある.
建築は木造3階建て,建築面積約145㎡,寄棟造・スレート葺[一部鉄板葺]で,3階屋根は腰折れ風に処理されている.外観はドイツ壁風仕上げと白タイル張りを組み合わせ,垂直性を強調している.岡山市街地における大正期近代建築の象徴とされ,1945年[昭和20年]の岡山大空襲でも戦災を免れた希少な建物である.窓枠や内装の一部は改修されているが,外観や構造はほぼ当時の姿を保っている.
戦後は1階にレストラン,2階に集会室,3階に和室の宿泊施設を備え,後には聖書書店やクラシックレコード店も入居した.2002年にはアート関連NPOの協力によりリニューアルが行われ,現在は1階に「珈琲屋ラヴィアンカフヱ」が入り,2階はイベントや集会,貸しギャラリーとして利用されている.
立地は岡山市中心部の城下交差点近くで,路面電車城下駅から徒歩3分ほどの位置にある.隣接して岡山城西の丸西手櫓があり,江戸期の城郭建築と大正期の近代建築が並び立つ景観は歴史的価値が高い.
この建物は,大正期の禁酒運動の象徴であるとともに,戦災を免れた近代建築としての希少性,さらに現代における文化活動の場としての役割を併せ持つ,多層的価値を有している.
@2014-12
今日も街角をぶらりと散策.
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