瑞聖寺大雄宝殿
瑞聖寺大雄宝殿は,東京都港区白金台に所在する黄檗宗系単立寺院・瑞聖寺の本堂であり,江戸初期の黄檗宗建築を代表する貴重な建造物である.瑞聖寺は1670[寛文10]年に創建され,江戸幕府によって招聘された明の高僧・隠元隆琦の高弟である木庵性瑫によって開かれた.大雄宝殿はその創建当初の建物が現存しており,再建ではなく,江戸初期における中国明代様式の特徴を色濃く残す希少な原建築として知られている.
瑞聖寺は江戸において最初に建立された黄檗宗寺院であり,一山之役寺と称され,江戸における黄檗宗寺院群の中心的存在であった.開基は摂津麻田藩の第二代藩主・青木重兼であり,彼は木庵に深く帰依し,晩年には家督を譲って出家した.『江戸名所図会』には,山門,天王殿,大雄宝殿,禅堂,鐘楼などの堂宇を擁する壮大な伽藍として描かれているが,文政年間に罹災し,多くの建物が焼失した.
大雄宝殿の名称は,釈迦如来の徳を称える「大雄世尊」に由来しており,釈迦如来を本尊とする本堂にしばしば用いられる.この大雄宝殿もまた釈迦如来像を中心に安置する瑞聖寺の礼拝の中心であり,精神的中枢をなしている.
建築は入母屋造,本瓦葺で,桁行三間・梁間四間の規模をもち,屋根は裳階付きの二重構造である.屋根の頂部には宝珠が置かれ,両端には鯱が配されるなど,黄檗宗独自の様式が明瞭に表れている.軒下には二重の扇垂木が整然と並び,正面一間通りは高く吹き放たれ,天井は化粧屋根裏天井となっており,屋根裏の構造がそのまま見えるように設計されている.建物の各所には中国趣味が濃厚に表現されており,丸窓,角基壇,桃の浮彫が施された半扉,魚椰[木製の魚型の鳴らし物]などにその影響が顕著である.
内陣には釈迦如来坐像が安置されており,本尊として篤く信仰されている.また,大雄宝殿の右手には布袋尊が祀られ,山手七福神の霊場の一つとして知られている.正月には多くの参拝者が布袋尊を目当てに訪れ,両脇に安置された四天王像がその尊像を護っている.
瑞聖寺は,創建時の壮麗な伽藍の多くを火災により失ったものの,大雄宝殿とその右手前にある鐘楼は創建当初の姿を今に伝える貴重な遺構である.大雄宝殿および通用門一棟は,1984[昭和59]年に東京都指定有形文化財に,1992[平成4]年には国の重要文化財に指定され,保存と活用が図られている.
このように瑞聖寺大雄宝殿は,江戸初期における日中仏教建築交流の結晶であり,東京において明代建築の様式美を今に伝える数少ない遺構として,歴史的・文化的に極めて高い価値を有している.
@2016-12
今日も街角をぶらりと散策.
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