ラ・フィネット

フランスのロココ時代を代表する画家であり、雅宴画(フェート・ギャラント、fêtes galantes)で知られるアントワーヌ・ヴァトー(Antoine Watteau、洗礼日1684年10月10日~1721年7月18日)による1717年頃の作品。

板に描かれ、縦25センチ、横19センチという小品ながら、ヴァトーの繊細な色彩と軽やかな筆致が凝縮されている。現在はパリのルーヴル美術館に所蔵されており、1869年にラ・カーズ・コレクションの遺贈によって同館に入った。

題名の「フィネット(finette)」は、フランス語で「抜け目のない」「機知に富んだ」「おしゃまな」といった意味を持つ。画面には、光沢のある白い絹のドレスをまとった若い女性が、木立を背に腰掛けている。彼女は顔をわずかに傾け、鑑賞者から視線を逸らすように脇へ目を向ける。そこには、悪戯っぽさと物思いが入り混じった表情が浮かぶ。こうした微妙な心理の描写は、ヴァトーの真骨頂である。

彼女が手にしているのは、ギターである。当時のフランスで広く愛好された、バロック・ギターと考えられる。指先は弦に添えられ、いまにも爪弾こうとするかのようだ。音の聞こえない絵画から、静かな調べが立ちのぼってくるように感じられる。

ヴァトーは、貴族たちが自然の中で音楽や恋の語らいを楽しむ「雅宴画(フェート・ギャラント)」の画家である。1717年に王立絵画彫刻アカデミーへ提出した『シテール島への巡礼』によって、この画題はアカデミーに正式に認められた。『ラ・フィネット』は雅宴画そのものではなく、その世界から抜き出された単身の人物像である。それでも、深い木立に囲まれた背景は、世俗から離れた詩的な空間をつくり出している。ヴァトーの作品では、音楽はしばしば、移ろいやすい恋の儚さや孤独の気配と結びついている。

本作は、同じくルーヴル美術館が所蔵する『無関心な男(L'Indifférent)』と対をなす作品と見なされている。『無関心な男』は踊るような軽やかな足取りの青年を描き、『ラ・フィネット』は楽器を奏でる女性を描く。二点を並べると、「舞踏」と「音楽」という、宮廷文化が愛した二つの要素が対比的に示される。両作は大きさもほぼ同じで、ヴァトーの晩年の洗練を伝える作品である。

補足:ラ・カーズ・コレクション

ラ・カーズ・コレクションは、フランスの医師・美術収集家ルイ・ラ・カーズ(Louis La Caze, 1798–1869)が築いた絵画コレクション。

彼は医師として働くかたわら、生涯にわたって主に17〜18世紀の絵画を収集。ヴァトー、フラゴナール、シャルダン、フランス・ハルス、レンブラント、ヴェラスケスなど、約800点に及ぶ。

1869年の没後、その大半がルーヴル美術館に遺贈され、同館の絵画コレクションを大きく充実させました。ヴァトーの『ジル(ピエロ)』や『無関心な男』、『ラ・フィネット』もこの遺贈に含まれる。


'Beauty is truth, truth beauty,'-that is all Ye know on earth, and all ye need to know.
John Keats,"Ode on a Grecian Urn"

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