ピエロ

フランスのロココ時代を代表する画家であり、雅宴画(フェート・ギャラント、fêtes galantes)で知られるアントワーヌ・ヴァトー(Antoine Watteau、洗礼日1684年10月10日~1721年7月18日)が1718〜19年頃に制作された油彩画。縦約185cm、横約150cmの大作である。現在はルーヴル美術館が所蔵。旧称は「ジル」であるが、これはヴァトー自身が付けた題ではない。19世紀以降に付いた通称である。

この絵の本質は、イタリアの即興喜劇コメディア・デラルテに由来する役者たちを、独特の哀愁をもって描いた点にある。ヴァトーは同喜劇の役者を繰り返し描いており、本作もその系譜に属する。看板絵として描かれたという説があるが、確証はない。

画面中央には、白いサテンの衣装をまとったピエロが、ほぼ等身大で正面を向いて立っている。衣装はぶかぶかで体に合わず、袖や裾が余っている。腕をだらりと下げた不器用な姿は、彼の孤独と周囲との隔絶を際立たせている。表情は穏やかであるが、焦点の定まらないまなざしには、観客を笑わせる道化師らしからぬ物憂げで虚ろな気配が漂う。低い視点から見上げる構図により、ピエロは空を背景に記念碑的な存在感を放っている。

ピエロの背後、画面下方には、劇中の華やかな表舞台を思わせる役者たちの群像が小さく描かれている。ロバにまたがる医者、カピタン、レアンドル、イザベル、スカパンらである。赤い衣装に赤い帽子の男性が横顔を見せ、その周囲では、コミカルな表情や物憂げな表情の役者たちが演じている。彼らは華やかな衣装で生き生きと演じており、静かに立つピエロとは対照的である。

「ジル」(Gilles)は、フランスの市井の芝居に登場した道化役の名である。白衣のこの人物がその役と同一視され、19世紀に「ジル」の通称で呼ばれるようになった。その後、役柄の同定が見直され、現在は「ピエロ」が題名とされている。ルーヴル美術館も「ピエロ(旧称ジル)」として扱っている。

ヴァトーは、役者たちが役を離れる瞬間の内面を捉えることに長けていた。芝居の合間や開幕直前のような、一瞬の静寂である。画面全体の繊細な色彩と明暗の対比は、ヴェネツィア派に学んだ柔らかな光の表現とともに、ロココ的な優美さを醸し出している。同時にこの作品は、単なる享楽的な絵画にとどまらない。人間の孤独と哀愁という深い精神性を湛えている。


'Beauty is truth, truth beauty,'-that is all Ye know on earth, and all ye need to know.
John Keats,"Ode on a Grecian Urn"

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