

クロアチアを代表する表現主義の画家であるアントゥン・マスレ(Antun Masle、1919/09/01–1967/08/20)による1950年の作品。
アントゥン・マスレの生涯における芸術的根源を色濃く反映した記念碑的な絵画作品。題名となっているオラシャツとは、クロアチア南部の世界遺産の街として名高いドゥブロヴニクの近郊に位置する小さな沿岸の村であり、画家自身が生まれ育った故郷そのものである。マスレにとってこの地は、単なる写生対象としての風景にとどまらず、人間と豊かな自然の調和、そして家族との強い絆という普遍的な価値観が湧き出る、神聖な「原初の場所」としての意味合いを持っていた。
画面の中央には、地中海の強い陽光や大地の息吹を思わせる鮮烈な赤色で描かれた伝統的な家屋が配置され、その周囲を村の象徴である青々とした海や澄み渡る空、そして豊かに茂るオリーブの木々が取り囲んでいる。フォーヴィスムやドイツ表現主義の潮流を深く吸収したマスレは、対象の形態を大胆に簡素化し、まるで子供が描いたかのような純粋無垢な視点を通して故郷の景観を再構築した。力強く太い黒の輪郭線と、パレットから直接絞り出したかのように絵の具を盛り上げる厚塗りの技法によって、画面には平面性を超えたレリーフのような独特の物質感とダイナミックな生命力が与えられている。
夜の帳が降りるような神秘的な深い青紫色の空と、手前に広がる鮮やかな赤や緑のコントラストは、目に見える現実の風景を模したものではなく、画家の内面に息づく郷愁の情と強烈な帰属意識の色彩的表出であると言える。若き日にザグレブの美術アカデミーで学び、生涯を通じて地中海の光を描き続けたマスレは、この作品において自らのアイデンティティであるオラシャツの牧歌的な空気感と情熱的な魂を見事に結晶化させている。かつて本人が「私は緑の葉とオリーブの木が豊かに茂り、海が青く、空が澄み渡った村に生まれた」と語った通りの温かくも力強い世界観が、時を経た現代の鑑賞者にも深い郷愁の念を呼び起こす。
参照:西洋美術史
'Beauty is truth, truth beauty,'-that is all Ye know on earth, and all ye need to know.
John Keats,"Ode on a Grecian Urn"
