12月14日のデカブリストの乱

帝政ロシアおよびソビエト連邦で画家として活躍したルドルフ・ルドルフヴィチ・フレンツ(Рудольф Рудольфович Френц/Rudolf Rudolfovich Frentz, 1888-07-23 – 1956-12-27)による。

ルドルフ・ルドルフヴィチ・フレンツは、帝政ロシア・ソヴィエト期を通じて活躍した画家・版画家・美術教育者であり、レーピン記念国立絵画彫刻建築大学(旧帝室美術アカデミー)における戦争画工房の教授・主任を務めた人物。動物画家として知られる父ルドルフ・フェルディナンドヴィチ・フレンツ(1831 – 1918)から絵画の手ほどきを受けたのち、帝室美術アカデミーの戦争画教室でニコライ・サモキーシに師事し、1915年から作品展に参加、19世紀の戦争画・歴史画の伝統を継承しつつ、20世紀前半から中頃にかけて数多くの軍事的・歴史的主題の作品を制作した。

『12月14日のデカブリストの乱』(Восстание декабристов 14 декабря 1825 г.)と題されるこの素描は、1951年に制作され、現在ロシア国防省中央海軍博物館の収蔵品となっている。1825年12月14日(ユリウス暦)にサンクトペテルブルクの元老院広場で発生したデカブリストの乱を主題とし、この事件を単なる記録ではなく、国家と自由、忠誠と理想が激しく衝突する象徴的な場面として視覚化した作品である。なお、フレンツはこの主題を1925年にも素描として手がけており(蜂起100周年を機にレニングラード市ソヴィエトが買い上げ、国立ロシア美術館の収蔵品となった)、本作はその四半世紀余りのちに改めて取り組んだ、より円熟した構成を示すバージョンといえる。

作品が描くデカブリストの乱は、ナポレオン戦争を経験した若いロシア貴族や近衛将校たちが、ヨーロッパで目にした立憲政治や自由主義思想に影響を受け、専制政治の改革を目指して蜂起した事件である。皇帝アレクサンドル1世の死後、皇位継承をめぐる混乱を好機と考えた反乱軍は、新皇帝ニコライ1世への忠誠宣誓を拒否し、憲法制定や農奴制改革を求めて元老院広場へ集結した。しかし十分な指導力や統一した作戦を欠いていたため計画は混乱し、最終的にはニコライ1世の命令による砲撃によって鎮圧された。この事件は失敗に終わったものの、後世にはロシア自由主義運動の出発点として高く評価されている。

フレンツはこの歴史的瞬間を、広場全体を見渡す構図によって描いている。画面中央には反乱軍の将校や兵士が密集し、その周囲を皇帝軍の騎兵隊や歩兵隊が取り囲む構図となっている。兵士たちは厳寒の冬の空気の中で整然と隊列を組みながらも、広場には緊張と混乱が入り混じり、一触即発の空気が漂っている。素描という媒体の性格上、色彩は油彩の歴史画のように多彩ではなく、限られた色数もしくは単色の階調によって、雪に覆われた広場の重苦しい空気と冷徹な国家権力の存在感が表現されている。

人物描写には歴史画家としてのフレンツの力量がよく表れている。反乱軍の将校たちは恐怖に屈することなく毅然とした姿勢を保ち、それぞれが異なる表情や身振りによって決意や葛藤を示している。一方で皇帝軍は秩序と規律を象徴する存在として描かれ、整然とした隊列と冷静な動作によって国家権力の圧倒的な威圧感を表現している。この両者の対比は、単なる戦闘場面ではなく、理想を掲げる個人と絶対君主制との思想的対立を視覚的に示す重要な要素となっている。

建築物の描写もフレンツの作品の重要な特色である。実際の1825年当時、現在よく知られる元老院・シノド庁舎(カルロ・ロッシ設計、両棟をつなぐ有名なアーチを持つ)はまだ着工されておらず(着工1829年、完成1834年)、聖イサアク大聖堂もいまだ建設途上にあった。カール・コリマンの水彩画をはじめとする同時代の他の作品には、広場の空間を実際より広く誇張して描いたものが少なくないと指摘されているが、フレンツはこうした先行作に比べ、当時実際には手狭であった元老院広場の空間をより正確に再現した点で評価されている。壮麗な帝都サンクトペテルブルクの建設途上の景観を背景に描くことによって、反乱が単なる局地的事件ではなく、帝国全体の運命を左右する重大な出来事であったことが強調されている。

本作は、英雄的勝利を描く戦争画とは異なり、理想に殉じた人々の悲劇を歴史的視点から描いた作品である。デカブリストたちは軍事的には敗北し、多くが処刑またはシベリアへ流刑となったが、その思想は後の知識人や革命家に受け継がれ、ロシア革命へと至る長い思想史の出発点の一つとなった。フレンツはこの歴史的意義を、劇的な瞬間の再現だけでなく、人物の精神性や都市空間の緊張感を通じて表現しており、本作はロシア歴史画の中でも国家権力と自由への希求が激しく交錯する瞬間を象徴的に描き出した優れた作品として注目を集めてきた。

参照:西洋美術史


'Beauty is truth, truth beauty,'-that is all Ye know on earth, and all ye need to know.
John Keats,"Ode on a Grecian Urn"

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