

このフレスコ画は、1494年に高名なギリシャ系の画家フィリッポス・グール(Φίλιッπος Γου、Philippos Goul)によって精緻に描かれた彼の生涯の最高傑作であり、美術史的にも極めて高い価値を有している。
その壮大な壁画群は、東方正教会が長年培ってきた厳格なイコンの伝統様式を忠実に守りながらも、当時キプロス島を支配していたヴェネティア共和国経由の西欧ルネサンス美術の先進的な技法や写実性を巧みに融合させている点が特徴である。
画面に描かれている二人の聖人のうち、向かって左の聖アントニウス(St. Anthony)は「修道生活の父」と称され、悪魔の誘惑に耐え抜き砂漠で孤独な修行に励んだ強靭な精神性を象徴する白髪の老人として表現されている。
一方、右に佇む聖サバス(St. Sabas)は483年にエルサレムの旧市街から南東に約15キロメートル、ベツレヘムからは東に約15キロメートル離れたケドロン渓谷(Kidron Valley、 נחל קדרון)の断崖絶壁にマル・サバ修道院(Mar Saba Monastery / Holy Lavra of Saint Sabbas)を創設し、厳格な規律のもとで多くの修道士を導いた指導者であり、彼ら二人の並びはキプロスにおける東方正教の深い修道院伝統と篤い信仰心を象徴している。マル・サバ修道院
聖人たちは、細部まで丁寧に質感を持って描き込まれた衣服のひだや、個々の深い精神性と人間性を感じさせる豊かな表情を持っており、単なる平面的な宗教のシンボルを超えた強い存在感と立体感を放っている。
幾世紀もの過酷な時代を経てなお色褪せることなく、奇跡的にほぼ完璧な状態で現代に残されたこれらの描写は、当時の地中海世界における卓越した芸術水準を証明するとともに、東洋と西洋の文化が交錯して生まれた独自の美意識を雄弁に物語っている。
この傑作を内包するのが、キプロスの豊かな大自然が広がるトロオドス山脈(Troodos Mountains、Τρόοδος)の麓に佇むアギアスマティの聖十字架教会(Τίμιος Σταυρός του Αγιάσματι、Church of the Holy Cross of Agiasmati)であり、中世の面影を現代に色濃く伝えるこのビザンツ様式の聖堂は、フレスコ画とともにユネスコの世界遺産に登録されている。
参照:西洋美術史
'Beauty is truth, truth beauty,'-that is all Ye know on earth, and all ye need to know.
John Keats,"Ode on a Grecian Urn"
