

アントワーヌ・ル・ナン(Antoine Le Nain、1588年頃 - 1648年)、ルイ・ル・ナン(Louis Le Nain、1593年頃 - 1648年)、マチュー・ル・ナン(Mathieu Le Nain、1607年 - 1677年)のル・ナン兄弟による1647年頃の作品。表題は、『室内の肖像群』(Portraits dans un intérieur)と複数形になっている。
支持体は布ではなく銅板であり、寸法は28×38センチメートルというごく小さな画面である。画面左下には「Lenain fecit 1647」という署名と年記が残されており、これはル・ナン兄弟の署名作品のうちもっとも遅い年記を持つ一点として知られている。
伝統的に本作はアントワーヌ・ル・ナンの作とされてきた。この帰属は1904年のアントニー・ヴァラブレーグの研究に遡り、もしこれが正しければ、アントワーヌが1648年に没する前年に描かれたことになる。研究史上「白鳥の歌」とも評されてきた所以である。ただし、ル・ナン兄弟の作品は生前ほとんど「Lenain」の姓のみで署名され、誰の手になるかを明示しなかったため、個々の作品を三兄弟のいずれかに帰属させる作業には今日でも常に留保が伴う。本作についても様式的特徴(人物の輪郭の確かさ、群像小型肖像への嗜好)からアントワーヌ作とする見方が有力であるにとどまる。
画面には数名の人物が室内に集い、動きのある身振りや相互の会話を交わすことなく、それぞれ鑑賞者の方へ視線を向けている。犬や猫(赤みを帯びた小猫)といった動物も配されている。しかしながら、この場面が実在する特定の一家を描いた肖像なのか否かについては、研究者の間で解釈が分かれている。ヴァラブレーグが最初に提起し、1979年にニール・マクレガーが発展させた説では、これは自身の農場を視察に訪れた裕福な農民を描いたものとされ、当時の農村における経済的変動と、土地を所有するようになった富裕な都市住民階級の台頭を反映しているという。これに対し同じ1979年、エレーヌ・アデマールは、カトリック改革の精神性を背景とした「貧者への施し」の場面を演出したものと論じた。一方、ルーヴル美術館自身の見解では、これは特定の実在家族というよりも、ル・ナン兄弟が常用していたモデルや、彼らの身近な人々を起用し、演出と匿名性によって具体的な行為を持たない一種の風俗画へと転化させた、画商向けの集合肖像の一形式とみなされている。したがって本作を「裕福な市民の一家の肖像」と断定的に語ることは避け、こうした複数の解釈が併存している状況を踏まえて記述するのが妥当である。
構図に関しても、従来しばしば語られてきた「調和のとれた安定感」という評価は、必ずしも研究史上の一致した見解ではない。本作はむしろ三層の平行する画面構成のうちに、様々な方向を向いた人物たちが並置される形式をとっており、これはアントワーヌの様式にきわめて特徴的なものとされる。ただし同時代以来の批評は、この構図をやや辛口に評してきた。ヴァラブレーグは、これほど遅い年記を持つ作品にしては拙さが目立ち、画家の才能が「停滞したまま」であることを示すと指摘した。ポール・ジャモも、白い顎鬚に奇妙な二重庇の帽子をかぶった老人の顔などに見られる、ほとんど戯画に近いほど生き生きとした人物描写は高く評価しつつ、垂直線を多用した構図の拙さ、硬直した人物たちが有機的な関係なく並置されている点を批判している。すなわち本作の魅力は、洗練された全体構成にあるというよりも、個々の人物の観察の細やかさと親しみやすい人間味、そして色彩の率直さと生気にあると理解するのがより正確である。
色彩については、褐色や灰色を基調とした抑制的な色調が用いられている点は、ル・ナン兄弟の作品全体に通じる特徴であり、本作でもおおむね踏襲されていると考えられる。アントワーヌの作風については、陰影を強く用いず、人物全体を均質な光で照らし出す傾向が指摘されており、劇的な明暗の対比よりも、落ち着いた雰囲気を醸し出す穏やかな光の扱いを特徴とする。暖炉の炉棚とその上に置かれた器物、赤みがかった小猫、犬、水差しと卓布といった細部は、いずれもカールスルーエ美術館所蔵の《舞踏の準備》、ロサンゼルス郡立美術館所蔵の《三人の若い音楽家》、ロンドン・ナショナル・ギャラリー所蔵の《五人の子供を持つ女》など、ル・ナン兄弟の他の作品にも繰り返し現れる定型的なモチーフであり、この点も、特定の実在の場面というよりは、画家たちの工房で反復使用された小道具やモデルによって組み立てられた演出的場面であった可能性を裏づけている。
ル・ナン兄弟はしばしば「農民画家」として紹介されるが、本作はそうした農民主題の作品群とは異なる、都市的あるいは地方の裕福な階層を対象とした小型群像肖像の系譜に属している。身分の上下にかかわらず人間そのものへ静かな関心を向けるという姿勢は、農民を描いた代表作にも通底するものであり、その意味で本作もまた、ル・ナン兄弟の芸術に一貫する、誇張のない人間観察への眼差しを示す一例として位置づけることができる。ただし本作自体は、様式的には彼らの円熟期の到達点というよりも、しばしば構図上の生硬さを指摘されてきた作品であり、その評価は手放しの賛辞というより、人物描写の魅力と構成の未成熟さとが併存する、ル・ナン研究における興味深い一例として受け止めるのがより正確であろう。
参照:西洋美術史
'Beauty is truth, truth beauty,'-that is all Ye know on earth, and all ye need to know.
John Keats,"Ode on a Grecian Urn"
