中国工商銀行

概要

中国工商銀行(Industrial and Commercial Bank of China、ICBC)は、北京市に本店を置く中国最大の商業銀行。中国建設銀行、中国銀行、中国農業銀行と並ぶ中国4大国有商業銀行の一つ。1984年の発足から40年余りを経て、総資産では世界最大級の金融機関へと成長し、上海証券取引所と香港証券取引所に上場している。総資産は約7兆6,000億米ドル(2026年)。時価総額は約3,000億ドル(2026年)。

設立の背景と専業銀行体制の確立

ICBCの起源は、1978年末に開催された中国共産党第11期三中全会において改革開放路線が採択されたことに遡る。それまでの中国では、中国人民銀行が中央銀行機能と一般商業銀行機能を同時に担う「一行両制」と呼ばれる非効率な体制が続いていた。改革開放の進展に伴い専門性を備えた商業銀行の必要性が高まったことを受け、1983年9月、国務院は人民銀行を中央銀行専業の機関とし、その商業銀行業務を分離して新たな銀行を設立することを正式に決定した。こうした準備を経て、1984年1月1日、中国工商銀行が正式に発足した。これは、農業銀行、建設銀行、中国銀行とあわせて分野別に国有専業銀行を整備する体制が完成したことを意味する画期的な出来事であった。発足当初のICBCは、旧人民銀行が担っていた企業向け融資業務や個人の貯蓄業務をそのまま引き継ぐかたちで営業を開始しており、老舗銀行としての歴史を持たない、いわば国家の金融改革から生まれた新興銀行であった。

国有商業銀行への転換と不良債権問題の克服

1986年から1993年にかけて、ICBCは都市部の支店網を軸とした管理体制の改革を進め、全国規模での業務基盤を拡大した。1994年には金融体制改革が実施され、政策金融と商業金融の分離が図られたことで、ICBCは名実ともに国有商業銀行として位置づけられることとなった。1994年から2004年にかけての時期は、市場経済化の進展とともに不良債権問題への対応が大きな課題となった時期でもある。国有企業向け融資の焦げ付きなどを背景に不良債権比率は高水準にあったが、政府による資本増強や不良債権の分離処理などの施策を通じて経営体質の改善が進められ、2004年末までに不良債権比率は18.99パーセントにまで低下した。この間の2000年12月には、総資産が4兆元を突破し、中国国内の商業銀行として初めて4兆元の大台に達している。こうした改革の積み重ねが、後の株式会社化と国際資本市場への上場に向けた基盤を形成した。

株式会社化と上海・香港同時上場

不良債権処理と経営基盤の強化を経て、2005年10月、ICBCは国有独資銀行から株式会社形態へと全面的に改組され、中国工商銀行股份有限公司となった。そして2006年10月27日、ICBCは上海証券取引所と香港証券取引所において同時に新規株式公開を行った。A株とH株を同一日程で同時上場させたこの手法は当時世界でも例のない試みであり、世界的な注目を集めた。この新規株式公開は、それまで日本のNTTが1998年に樹立していた過去最大のIPO記録を更新するものとなり、世界中から巨額の買い注文が殺到したと伝えられている。上場初日の香港市場では株価が大きく上昇するなど華々しい船出となり、ICBCは一躍、時価総額で世界有数の銀行としての地位を確立することとなった。

上場後の飛躍的成長と時価総額世界一への到達

上場後、ICBCの株価は数か月のうちに大幅な上昇を遂げ、JPモルガン・チェースやHSBCといった欧米の大手金融機関の時価総額を次々と追い抜いていった。そして2007年7月には、当時時価総額で世界最大の銀行であったシティグループを上回り、ICBCは米ドルベースの時価総額で世界第1位の銀行に躍り出た。この出来事は、中国の金融機関が国際金融市場において欧米の伝統的な大手銀行を凌駕する存在となったことを象徴する出来事として広く報じられた。その後も、フィナンシャル・タイムズ紙の関連誌が発表する銀行ランキングなどにおいて、総資産額および営業収益の両面で世界第1位の地位を長期にわたって維持し続けている。

国際展開とグローバル化

ICBCは国内での基盤強化と並行して、国際展開にも積極的に取り組んできた。2000年には香港の建南銀行(ユニオン・バンク・オブ・ホンコン)を買収し、2001年には同行をICBC(アジア)へと改称した。2003年にはベルギーの金融グループであるフォルティスから、香港拠点の銀行子会社であるベルジアン・バンクを買収するなど、香港を拠点とした海外拠点の拡充を進めた。さらに2007年にはマカオの誠興銀行の株式の過半を取得し、2009年にはこれをICBC(マカオ)として統合した。こうした一連の買収を通じて、ICBCはアジアを中心に海外拠点網を着実に広げ、現在では世界の主要な金融センターに支店網や現地法人を展開する、真にグローバルな金融グループへと発展している。

第1版:2026-09-03.

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