無錫薬明康徳新薬開発.Wuxi AppTec Co.,Ltd.
無錫薬明康徳新薬開発は,2000年に中国江蘇省無錫市において,有機化学博士の李革[Ge Li]らによって創業された契約研究・開発・製造サービス[CRDMO]を提供するグローバル企業である.創立当初の社名はWuXi PharmaTech Co., Ltd.であり,主に海外の製薬企業向けに合成化学サービスを提供することから事業を開始した.
同社はその後,提供するサービス範囲を段階的に拡大し,2003年には製造プロセス開発サービスを開始,2004年には研究開発向け製造サービスを導入,2005年にはバイオ分析サービスを立ち上げ,2007年には毒性試験および製剤サービスの提供を開始した.同年,ニューヨーク証券取引所に上場を果たした.2008年には米国のAppTec Laboratory Services, Inc. を買収し,社名をWuXi AppTecに変更した.この買収により,同社は米国ミネソタ州セントポール,ペンシルバニア州フィラデルフィア,ジョージア州アトランタなどに拠点を獲得した.
重要な関連企業として,同社は2010年にWuXi Biologics [Cayman] Inc.[薬明生物技術,WuXi Biologics]を設立し,バイオ医薬品領域への進出を本格化した.WuXi Biologicsは当初WuXi AppTecの子会社として設立されたが,2017年に香港証券取引所に独立上場し,現在では世界最大級のバイオ医薬品CDMO[契約開発製造機関]企業として独立運営されている.両社は創業者や経営陣に共通点があり,緊密な協力関係を維持しながらも,それぞれ独立した事業体として運営されている.WuXi AppTecが主に小分子医薬品に特化する一方,WuXi Biologicsはバイオ医薬品[抗体,ワクチン,細胞・遺伝子治療製品等]に特化している.
2011年には中国の臨床開発企業MedKeyおよび米国サンディエゴ拠点のAbgentを買収し,臨床開発およびバイオ研究分野を強化した.2014年には米国XenoBiotic Laboratoriesを買収し,前臨床領域の機能も拡充した.
2015年にはニューヨーク証券取引所での上場を終了し非公開企業となったが,2018年には上海証券取引所[証券コード:603259.SH]および香港証券取引所[証券コード:2359.HK]に再上場した.現在,同社は中国・上海に本社を置き,無錫,蘇州,常州,北京,広州,天津など中国国内主要都市に加え,米国,欧州,韓国,イスラエル,シンガポールなど世界各地に研究・製造拠点を有している.
同社の業務内容は,医薬品および医療機器の創薬研究・開発から製造に至るまでの包括的なアウトソーシングサービスの提供である.具体的には,合成化学[小分子]研究,製造プロセス開発,製剤・毒性試験,バイオ分析,臨床試験支援,小分子医薬品の開発・製造,医療機器の試験などを含む広範な領域に対応するプラットフォーム型企業である.
同社は世界最大規模の化学者・研究者を擁しており,従業員数は30,000名以上[2023年時点]を超え,その中には多数の博士号取得者や海外経験者が含まれる.同社は世界トップクラスのCRO・CDMO企業として,グローバル市場において高く評価されている.
近年は,細胞・遺伝子治療,ゲノミクス,ADC[抗体薬物複合体],AI創薬などの先端分野においても対応を強化しており,ドイツのCrelux[2020年買収]や中国のHD Biosciencesなどの戦略的買収を通じて,前臨床研究や化学R&Dの能力を一層拡充している.また,2019年にはドイツのCrelux GmbHを,2021年には米国のOxford BioTherapeuticsを買収するなど,欧米での事業基盤も着実に拡大している.
また,同社は米国および欧州の一部政府機関から安全保障上の懸念を理由とした規制措置の対象となっており,2021年には米国商務省のエンティティリストに追加された.これにより,米国企業との取引において一定の制限を受けているが,同社は法的手続きを通じてこれらの措置に対応するとともに,事業の多様化と地理的分散を進めている.
無錫薬明康徳新薬開発は,創業以来一貫して研究開発力とグローバルネットワークの拡張を重視しており,世界の製薬・バイオ企業にとって重要なCRDMO[契約研究開発製造機関]プラットフォームとしての地位を確立している.主要拠点に根ざした事業基盤と積極的な戦略的投資を背景に,今後も創薬の効率化と医療技術革新を支える中核的な役割を果たすことが期待されている.
なお,バイオ医薬品開発受託の薬明生物技術[WuXi Biologics〔Cayman〕Inc.]は同社の上場子会社.
Vita brevis, ars longa. Omnia vincit Amor.