エヌビディア

Nvidia Corp.時価総額:4.34兆ドル[2025].

エヌビディアは,1993年にジェンスン・フアン[Jensen Huang],クリス・マラコウスキー[Chris Malachowsky],カーティス・プリーム[Curtis Priem]によって,アメリカ・カリフォルニア州サンタクララにて創業された.創業当初からコンピュータグラフィックス分野に特化した半導体企業として,グラフィックス処理装置[GPU]の開発を主軸に据えた戦略を掲げていた.

1995年,初の製品となるNV1を発表した.当時は3Dゲームの黎明期であり,NV1は革新的な統合型マルチメディアチップとして注目されたが,DirectXとの非互換性や市場ニーズとの乖離から商業的には成功しなかった.この失敗を教訓とし,エヌビディアはオープンなAPIとの互換性やソフトウェアエコシステムとの整合性を重視する方針に転換した.

1997年にはRIVA 128[NV3]を発表し,これが初の商業的成功となった.さらに1998年にはRIVA TNT[NV4]を投入し,2D/3D統合型グラフィックスチップとしての市場地位を確立した.

1999年,エヌビディアはGeForce 256[NV10]を発表した.これは業界で初めて「GPU[Graphics Processing Unit]」と定義された製品であり,トランスフォーメーション・ライティング[T&L]機能をハードウェアレベルで統合することで,従来のCPU依存型グラフィックス処理に大きな変革をもたらした.この製品は業界の技術基準を塗り替え,エヌビディアの市場におけるプレゼンスを急速に拡大させた.

2000年には,かつての業界最大手であった3dfx Interactiveの資産を買収し,同社の知的財産,技術,エンジニアを吸収した.特に3dfxのSLI[Scan-Line Interleave]技術は,のちに「Scalable Link Interface」としてエヌビディアのマルチGPU技術に再定義され,再導入された.GeForce 2シリーズ[2000年]ではDirectX 7対応とT&L機能の強化がなされ,GeForce 3シリーズ[2001年]では世界初のプログラマブル頂点シェーダーが実装された.GeForce 4[2002年]では性能とコストバランスが強化され,GeForce FXシリーズ[2003年]ではDirectX 9への対応と完全プログラマブルピクセルシェーダーが導入された.

2006年,エヌビディアはCUDA[Compute Unified Device Architecture]を発表し,GPUを汎用計算処理[GPGPU]へと拡張する方向性を明確にした.これは,GPUを科学技術計算,機械学習,金融モデリング,暗号資産のマイニングなどに活用する道を開き,コンピューティングの構造そのものを再定義するパラダイムシフトとなった.同年にはTeslaアーキテクチャが登場し,統合シェーダー構造とCUDA対応が初めて実装された.2010年のFermiアーキテクチャでは倍精度演算の強化とECCメモリサポートにより,HPC分野での信頼性を飛躍的に向上させた.

2012年にはKeplerアーキテクチャが登場し,電力効率の大幅な改善と動的並列処理が導入された.2014年のMaxwellアーキテクチャではさらなる電力最適化が図られ,2015年の第2世代Maxwellでは性能と効率のバランスが著しく改善された.2016年のPascalアーキテクチャでは,16nm FinFETプロセス,HBM2メモリ,NVLink,高速FP16演算などが導入され,AIワークロードへの本格対応が始まった.

2017年のVoltaアーキテクチャでは,AI専用演算ユニット「Tensor Core」が初めて搭載され,ディープラーニング性能が飛躍的に向上した.2018年のTuringアーキテクチャでは,RT Coreによってリアルタイムレイトレーシングが初めて実用化され,グラフィックスレンダリングの新たな基準を打ち立てた.

同時期には,自動運転技術への進出も加速し,「Nvidia Drive」プラットフォームは多数の自動車メーカーに採用された.また,高性能AIワークステーションである「DGX」シリーズは研究機関や企業のAI開発基盤として活用されている.

2020年,エヌビディアはArm社の買収を発表した[買収額約400億ドル].しかし,規制当局による反トラスト上の懸念から,2022年に正式に買収を断念した.それでも,この動きはエヌビディアのCPU市場への意欲と戦略的拡張の意思を外部に強く印象づけた.

2020年代には,Ampereアーキテクチャ[2020年]により第3世代Tensor Coreおよび第2世代RT Coreを導入し,AIとグラフィックス双方での性能が大きく向上した.2022年にはAda Lovelaceアーキテクチャが登場し,TSMCの4Nプロセスを採用,第3世代RT Coreと第4世代Tensor Coreを搭載した.同年発表されたHopperアーキテクチャはデータセンター向けで,Transformer Engineを搭載し,大規模言語モデル[LLM]処理に特化した設計となっている.

2022年以降,ChatGPTの登場を契機に生成AIブームが巻き起こり,エヌビディアのGPUである「A100」や「H100」への需要が爆発的に増加した.特にLLMの訓練には,大規模な行列演算と分散処理が必要であり,Tensor Coreの混合精度演算[FP16/BF16]やNVLinkによるGPU間通信,MIG[Multi-Instance GPU]による仮想化,TensorRTによる推論最適化など,エヌビディアの技術群はAIインフラの中心的構成要素となっている.

エヌビディアのGPUアーキテクチャは,固定機能からプログラマブルな処理への移行,頂点・ピクセル統合の統合シェーダーアーキテクチャ,CUDAによる汎用並列計算,Tensor CoreとRT Coreの導入,そしてTransformer EngineによるLLM最適化など,一貫して時代を先取りした技術革新を積み重ねてきた.

このように,エヌビディアは創業以来30年以上にわたり,グラフィックスからAI,スーパーコンピューティング,さらには自動運転やメタバース,量子コンピューティングに至るまで,計算技術のあらゆるフロンティアを切り開いてきた企業である.とりわけ2020年代の生成AI革命においては,エヌビディアのGPU技術がChatGPT,GPT-4,Claude,Geminiといった革新的モデルの基盤として,現代のデジタル社会を支える柱となっている.今後も技術革新の中心として,その影響力はさらに拡大していくと予想される.

2020年4月にメラノックスを買収.

本社2788 San Tomas Expressway,Santa Clara,CA 95051
上場市場NasdaqGS
URLwww.nvidia.com
同業AMD,Intel

Vita brevis, ars longa. Omnia vincit Amor.






















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