

旧小田急百貨店新宿店本館
旧小田急百貨店新宿店本館は, 新宿駅西口に直結する都市型百貨店として, 1962[昭和37]年11月3日に現在の小田急ハルク[旧館]の位置で開業し, 1966[昭和41]年9月に新館[地下鉄ビル]が部分開業, 1967[昭和42]年11月23日に小田急ビルが完成して本館として全面開業した商業施設である.戦後の高度経済成長期における都市再開発の文脈の中で, 西口地区は新宿駅の西側一帯の再整備と歩行者動線の整理が求められており, 鉄道会社による駅直結型百貨店の計画は, その需要に応えるものであった.小田急電鉄と東京地下鉄[東京メトロ]は共同で駅ビル開発を進め, 鉄道と商業の融合という戦略を具現化し, 駅利用者を中心とした都市型消費市場の開拓を狙った.
建物構成は, 地下・地上各階にわたって百貨店機能を集中させた典型的な都市型百貨店の形態を採用している.本館は, 北側の地下3階・地上8階建ての地下鉄ビルディング[東京メトロ所有]と, 南側の地上14階建て[高さ約62メートル]の小田急ビル[小田急電鉄所有]という2棟の駅ビルが外観を同一のパネルで統一されたデザインで構成されている.地下階には食料品売場と駅直結通路を配置し, 地上階から上層階には衣料品・生活雑貨などの専門売場を配した.9階から14階は「小田急スカイタウン」と命名され, レストラン, 文化催事場[後に小田急美術館]などが設けられた.階層ごとの売場設計は, 来店者の短時間滞在と効率的な動線を重視したものであり, 特に地上階の正面玄関周辺は駅利用者の自然な流入を促す動線として機能した.これにより, 西口広場と駅改札間の人流を商業空間へ巧みに誘導する仕組みが成立していた.
外観デザインは, 当初から近代的な装飾を抑え, 都市のスケールに調和する直線的なファサードを基本としていた.モダニズム建築家・坂倉準三が設計を手がけた本館の平滑な立面は, 1960年代の都市型百貨店の設計思想を反映しており, 西口広場とも一体化したデザインで, 都市景観との調和と存在感の両立を図るものであった.内部空間は, 吹き抜けや各階を貫く構成により, 消費者の回遊性を高めるとともに, 都市の喧騒を内部に取り込みつつ快適な購買環境を提供する工夫がなされていた.
テナント構成は, 開業当初から中高級層をターゲットとする百貨店の典型的な構成であり, 衣料品, 雑貨, 化粧品, 食料品の分野で多様な専門店を展開した.西口地区の商圏は, オフィス・ビジネス層と駅利用者を中心とするため, 短時間滞在型消費と定期購買を意識した売場運営が行われた.この点において, 小田急百貨店新宿店は, 1984年開業の南口側の新宿ミロード[小田急電鉄系]と連携しつつも, 百貨店としての格式を保ちながら東口地区の商業施設とは明確に差別化された集客戦略を持っていた.
時代の変化に伴い, 駅周辺の再開発と都市型商業施設の進化に応じて, 建物は何度か改修を経た.1988年から1990年頃には本館の大規模リニューアルが実施され, 1993年5月には上層階のレストラン街が「マンハッタンヒルズ」として再整備された.しかし, 建物の老朽化と都市機能更新の必要性から, 新宿駅西口地区開発計画[新宿グランドターミナル構想]に組み込まれることとなり, 本館は2022[令和4]年10月2日をもって閉館し, 2022年10月3日から解体工事が開始された.百貨店機能は隣接する新宿西口ハルクに移転・縮小して営業を継続している.
跡地は新宿西口地区の大規模再開発計画に組み込まれ, 小田急電鉄, 東京地下鉄, 東急不動産による地上48階, 地下5階, 高さ約260メートルの超高層複合ビルとして再建される予定である.新施設は高層部にハイグレードなオフィス機能, 中低層部に商業機能を備え, 中間フロアにはビジネス創発機能を導入する計画となっている.2022年度に着工し, 2029年度の竣工が予定されており, 駅上空・駅周辺の歩行者動線の再編と併せて新宿駅西口地区全体の都市景観の再定義に寄与することが期待されている.
東京・新宿区西新宿@1998-11

奥が地下鉄ビルディング.手前が小田急ビル.
@2022-10.

今日も街角をぶらりと散策.
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