ぶらぶら絵葉書

東茶屋街[ひがしちゃやがい]は,石川県金沢市東山に所在する,加賀藩の城下町文化を今に伝える伝統的な茶屋街である.江戸時代後期の1820[文政3]年,加賀藩によって公認の花街として整備された歴史を持ち,金沢に現存する三大茶屋街[東茶屋街・西茶屋街・主計町茶屋街]のうち,最大規模を誇る地区である.

この茶屋街は,浅野川の東岸に位置し,風情ある石畳の道に沿って,木虫籠[きむすこ]と呼ばれる格子窓を備えた木造二階建ての茶屋建築が軒を連ねる.浅野川の川面に近く,川沿いの柳並木とともに,詩情あふれる風景を形成している.また,近隣には主計町茶屋街や中の橋,梅ノ橋などの歴史的要素が密集しており,金沢の城下町構造を体感できる一帯でもある.

茶屋建築の特徴的な木虫籠格子や紅殻格子,出格子などの意匠は,金沢の伝統的町屋建築の典型であり,都市景観としての価値も高く評価されている.2001年には国の重要伝統的建造物群保存地区に選定され,歴史的な街並みが法的に保護されている.夜には提灯の灯がともされ,しっとりとした情緒が街全体を包み込み,往時の風雅が今なお生きていることを実感させる.

東茶屋街は,加賀百万石の文化的成熟の中で育まれた芸妓文化の中心地であった.芸妓たちは,唄・三味線・舞踊・茶の湯など多岐にわたる伝統芸能を習得しており,それらを披露する場として茶屋が存在した.現在もなお,現役の芸妓が在籍する茶屋が複数存在し,限られた機会ではあるものの,かつての遊芸の世界に触れることが可能である.金沢の芸妓文化は,京都の花街文化とは異なる独自の伝統と格式を持ち,加賀藩の武家文化の影響を受けた洗練された芸風を特徴としている.

現代においては観光地としての整備も進み,内部を見学できる茶屋建築として志摩,懐華樓などがある.特に志摩は,1820[文政3]年の創建当初の姿をよく残す茶屋建築として2003年に国の重要文化財に指定されており,往時の芸妓文化を知るための貴重な資料でもある.懐華樓は現在も営業を続ける茶屋で,昼間は見学が可能である.

その他にも,和菓子店,金箔工芸の店舗,ギャラリー,カフェ,料亭などが点在し,伝統と現代が共存する文化空間としても機能している.金沢の名産品である金箔を使った工芸品や,加賀友禅,九谷焼などの伝統工芸品を扱う店舗も多く,金沢の伝統文化を総合的に体験できる場所となっている.

＠2024-05

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