

コロッセウムは, 古代ローマ帝国における最大規模の円形闘技場であり, 紀元後69年から始まるフラウィウス朝の皇帝ウェスパシアヌスによって72年頃に建設が開始され, その子であるティトゥスの治世下で80年に完成したものである.正式名称をフラウィウス円形闘技場[Amphitheatrum Flavium]といい, ローマ市民に対する娯楽と皇帝権力の顕示を目的とした巨大公共建築である.建設地はネロ帝の宮殿「ドムス・アウレア[黄金宮殿]」の人工池を埋め立てた跡地であり, ネロの独占的私的空間を市民のための公共空間へと転換するというフラウィウス朝の政治的意図を反映している.なお, 「コロッセウム」という通称は, 近隣に存在したネロの巨大像[コロッスス]に由来するとされる.
この建築は長径約188メートル, 短径約156メートルの楕円形平面を持ち, 高さ約48–50メートルに達する四層構造から成る.収容人員は約5万人と推定されている.外壁はトラヴェルティン石灰岩・凝灰岩・レンガとローマン・コンクリート[オーパス・カエメンティキウム]を組み合わせたローマ独自の建築技術によって構築されており, 各階には異なるオーダーが重ねられている.すなわち, 最下層から順にドーリア式[またはトスカナ式], イオニア式, コリント式の半円柱アーケードが配され, 最上層[第四層]には窓と壁面装飾としてコリント式のピラスターが用いられている.このような重層的オーダーの配置は, 視覚的秩序と装飾性を同時に実現するものであり, ローマ建築に特有の統合的構成を示している.
内部構造においては, アーチとヴォールト[穹窿]を組み合わせた複雑な通路網が発達しており, 約80の入場口[ヴォミトリア]を通じて数万人規模の観客を効率的に収容・誘導することが可能であった.観客席[カウェア]は身分に応じて厳格に区分され, 最下段の貴賓席[ポディウム]には皇帝・元老院議員・ヴェスタの巫女などが, 中間層には騎士身分・一般市民が, 最上層には下層市民・女性・奴隷が配置された.この空間構成は, ローマ社会の階層秩序をそのまま可視化するものである.
闘技場中央のアリーナの床下には「ヒュポゲウム」と呼ばれる地下構造が広がり, 動物・剣闘士の待機室, 飼育施設, 舞台装置の機構が設けられていた.昇降装置[エレベーター状の機構]や滑車を用いて, 猛獣や装置が瞬時に地上へと出現する仕組みが備えられており, 観客に対して劇的な演出効果をもたらした.なお, 地下構造はドミティアヌス帝の治世[81〜96年]に増設・整備されたものであり, それ以前の初期段階においては模擬海戦[ナウマキア]が実施されていたが, 地下構造の完成後は不可能となった.また, 上部には「ヴェラリウム」と呼ばれる可動式の日除け[テント状の大型日よけ布]が設置され, ミセヌム艦隊の海軍兵士によって操作されていたとされる.
ここで行われた催しは, 剣闘士同士の戦闘[ムヌス], 猛獣狩り[ウェナティオ], 公開処刑, 模擬海戦[ナウマキア, 初期段階のみ]など多岐にわたり, ローマ市民に対する娯楽であると同時に, 皇帝による恩恵の象徴でもあった.ユウェナリスが「パネム・エト・キルケンセス[パンとサーカス]」と表現したように, このような大規模興行は都市統治の一環として機能し, 民衆の支持を維持する政治的装置として重要な役割を果たしていた.剣闘士は奴隷・戦争捕虜・志願者などから構成され, 専門の剣闘士養成所[ルドゥス]で訓練を受けた.コロッセウムに隣接するルドゥス・マグヌスはその代表的施設である.
建築技術の観点から見れば, コロッセウムはローマン・コンクリートの応用とアーチ・ヴォールト構造の高度な発展を示すものであり, 大規模公共建築の設計・施工における画期的成果である.外観の整然とした反復構造と, 内部の機能的かつ合理的な空間構成は, 装飾と構造・機能と象徴が緊密に統合された例といえる.
帝政の衰退とともに闘技場としての機能は5世紀以降に失われ, 中世にはたびたび発生した地震[特に1349年の大地震]による損壊ののち, 石材を他の建築に転用するための採石場として大量の外装材が剥ぎ取られ, また貴族の要塞としても利用された.18世紀にはキリスト教的観点からの聖化が行われ, 以降は保護の対象となった.1980年にはユネスコ世界文化遺産「ローマの歴史地区」の一部として登録され, 現在に至るまでローマ帝国の技術力と権力の象徴として存続するとともに, 年間数百万人が訪れる世界屈指の観光地となっている.
'Beauty is truth, truth beauty,'-that is all Ye know on earth, and all ye need to know.
John Keats,"Ode on a Grecian Urn"
