聖カタリナの神秘の結婚

作者不詳.1490年頃の作品.ハンガリー・ナショナル・ギャラリー所蔵.

聖カタリナの結婚とは, アレクサンドリアのカタリナに関して中世以来語られてきた「神秘の結婚」を指す.これは人間同士の婚姻ではなく, 聖女がキリストに自身を捧げる霊的契約を象徴するものである.

カタリナ[Saint Catherine of Alexandria]は古代エジプトの王家の出身と伝えられ, 優れた学識と美貌を備えた女性であったが, 異教の皇帝による信仰の強要を拒み, 50人の哲学者たちとの論争で勝利し, 地上の栄誉よりも信仰に基づく献身を選んだとされる.伝承では4世紀初頭[307年頃], 四帝分治制時代[τετραρχία,tetrarchy]の皇帝マクセンティウス[Marcus Aurelius Valerius Maxentius;c.278/312-10-28;在位:306/312]の治世下で殉教したとされるが, 歴史的実在性については議論がある.

伝承によれば, 彼女は幻視の中で幼子イエス[聖母マリアに伴われて]から指輪を授けられ, 天上の花婿を迎える「霊的な花嫁」として認められた.この象徴的な婚姻は, カタリナが処女性を守りつつ, 世俗的権力や異教への屈従を拒み, 神への完全な献身を選んだことを表す.中世キリスト教の精神世界において, この「神秘結婚」は, 信仰の絶対性や魂の純粋性を示す典型的主題として位置づけられた.特に14世紀以降, ルネサンス期には「聖カタリナの神秘の結婚」の図像が美術作品において頻繁に描かれるようになった.

カタリナの生涯は殉教によって締めくくられた.伝承では, 車輪による拷問を受けたが奇跡的に車輪が壊れ, 最終的には斬首によって殉教したとされる.「カタリナの車輪」は彼女の象徴的持物となっている.彼女の強固な信仰は神秘結婚の象徴性と結びついて後世に受け継がれた.学問・哲学・弁論に秀でた聖女として崇敬されると同時に, 知性と信仰を調和させた理想的人物像として, 修道生活やキリスト者の内的霊性の模範ともみなされてきた.

聖カタリナの結婚は, 歴史的事実よりも象徴性と宗教的意味が重視される伝承であり, 地上の権力への従属を退けて神への絶対的忠誠を選んだ聖女の精神性を示すものとして, 長く信仰世界で重要な役割を果たしてきた.


'Beauty is truth, truth beauty,'-that is all Ye know on earth, and all ye need to know.
John Keats,"Ode on a Grecian Urn"

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