ぶらぶら絵葉書

サニーヒルズ南青山

サニーヒルズ南青山は, 建築家隈研吾による現代日本建築を代表する作品の一つであり, 木材の構造的・象徴的可能性を極限まで引き出した建築として高く評価されている.台湾のパイナップルケーキブランド「サニーヒルズ[SunnyHills / 微熱山丘]」の東京旗艦店として, 2013[平成25]年12月に東京都港区南青山に竣工した本建築は, 商業建築でありながら同時に都市的な彫刻であり, 伝統構法の再解釈と現代都市における「木の建築」の再生を目指した試みである.

この建築の最大の特徴は, 外観全体を覆う格子状の木組みにある.これは日本の伝統的な木構法「地獄組[じごくぐみ]」に着想を得たものであり, 釘や接着剤を使わず, 木材の交差部をがっちりとかみ合わせる構造で, 一度組むと木を破壊するか切断をしないと二度と取り外すことができない.部材は6cm角の細い岐阜県産ヒノキが用いられ, 30度の角度を用い, 三次元で立体的に組むことによって, 厚みのある雲のような構造体が実現された.木材を直線状に繋げると約5kmにも及び, 4ヵ月もの工期をかけて構築された.この構造は単なる装飾ではなく, 各階の床を支える構造体でもあり, 荷重分散・通風・採光の機能を兼ね備えている.すなわち, 伝統技術の工学的合理性と現代建築の構造美を融合させた点において画期的である.

隈研吾はこの建築において, 従来の近代建築が依拠してきた「ガラスと鉄による透明な箱」という原型を批判的に再構成し, 自然素材の持つ不均質性や陰影を通じて, 都市の中に「柔らかい境界」を創出しようとした.木組みの隙間から漏れる光は昼夜で異なる表情を見せ, 内部と外部, 自然と人工, 伝統と現代の境界を曖昧化している.こうした構成は, 隈が一貫して提唱してきた「負の建築[Anti-Object]」──すなわち, 建築を主張的な「物体」としてではなく, 環境や人間との関係性の中で溶け合う存在として捉える──という思想を具現化している.

内部空間は, 木の香りと柔らかな光に満ち, 鉄筋コンクリート造一部木造, 地下1階地上2階建て[実質的には地上3階相当]の構成となっている.1階は物販スペース, 2階はティーサロンとして設計され, 来訪者は商品を購入することで木漏れ日が入る森の中にいる感覚を体験でき, ブランドの哲学を感じることができる.木材には岐阜県産のヒノキが使用されており, 地域材の活用による環境負荷の低減と林業支援も意図されている.この点においても, サニーヒルズ南青山は単なる商業施設を超え, サステナビリティとデザインを融合した新しい都市建築のあり方を提示している.

この建築はまた, 日本建築の歴史的系譜の中にも明確に位置づけられる.丹下健三や黒川紀章らがメタボリズムを通じて工業化と未来志向の建築を追求したのに対し, 隈はポスト・モダニズム以降の時代において, 自然素材を媒介として「環境と調和する建築言語」を再構築した.そのアプローチは, グローバル化によって均質化した都市空間に対し, 地域性と触感性を取り戻す運動として国際的に注目を集めている.

サニーヒルズ南青山は, その造形の独創性と構法の革新性により, JCDデザインアワード2014金賞や令和4年度第1回みなとモデル二酸化炭素固定認証制度表彰最優秀賞を受賞した.隈研吾の代表作「浅草文化観光センター」「国立競技場」「スターバックス太宰府天満宮表参道店」などと並び, 木構造を通じて人間の感覚と都市の環境を再接続する建築として高い評価を受けている.

@2014-12


今日も街角をぶらりと散策.
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