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ゲーム理論の基礎概念

定義 (ゲーム理論(game theory))
さまざまな意思決定の相互依存関係を数理的な厳密な方法論を用いて分析する理論.

ゲーム理論は1928年にジョン・フォン・ノイマン(John von Neumann)の論文『社会的遊戯の理論について』(Zur Theorie der Gesellschaftsspiele)における戦略的相互依存という概念提示を嚆矢とし、1944年にジョン・フォン・ノイマン(John von Neumann)とオスカー・モルゲンシュテルン(Oskar Morgenstern)による『ゲームの理論と経済行動』(Theory of Games and Economic Behavior)によって一つの分野として誕生した.
続いて、後にノーベル賞を受賞するナッシュは、ゲームにおける均衡を一般的に定義し、角谷の不動点定理を用いて、任意の有限な標準形ゲームに対して混合戦略均衡があることを示す数学の学位論文として提出し受理された.
この学位論文の中で、協力ゲームと非協力ゲームの区別を導入し、後にナッシュ均衡として知られるようになる、任意の数の参加者と任意の選好についての汎用的な解概念をも提示した.
ナッシュ均衡では、参加者全てが満足し、最適な戦略が実現される.ナッシュは、このナッシュ均衡の解釈として、

  • (合理性に基づく解釈):参加者全てが全ての選好を含めた完備な情報(=共通知識[common knowledge])を持っている.そして、お互いに最適な戦略に関する計算を完全に行うことが出来る.その結果がナッシュ均衡である.
  • (統計的母集団に基づく解釈):参加者全てが完備な情報を持っている訳でも、完全な計算が出来る訳ではないが、統計的にみればナッシュ均衡が実現する.
ナッシュと同時にノーベル賞を受賞したラインハルト・ゼルテンは流動的な戦略的依存を分析するためにナッシュ均衡の概念を精緻化、同じく、ジョン・C・ハーサニは不完備な情報の場合の分析をベイズ的アプローチによるベイジアン均衡点(Bayesian equilibrium)として提示した.
また、オーマンはデブルーとスカーフによる同一タイプの経済主体の数が限りなく大きくなると、市場のコアが完全競争均衡配分の集合に収束することを示した極限定理に対して、連続濃度の経済主体からなる市場ゲームを定式化し完全競争均衡配分の集合と市場ゲームのコアの一致を証明した.これによって、完全競争均衡はゲーム理論による基礎付けを得ることとなる.
続いて、レオニド・ハーヴィッツ、エリック・マスキン、ロジャー・マイヤーソンら(2007年ノーベル賞)は、どのような制度ないしメカニズムを用いてナッシュ均衡などの均衡へと導くべきかという方向での拡張を行った.この方向はオークションやマッチング理論などに発展し計算機科学とゲーム理論との融合をもたらしている.
ここにおいて、ゲーム理論は抽象的なツールという枠組みから大きな一歩を踏み出したということが出来る.

定義 (プレイヤー)
意思決定し行動する主体のこと.

定義 (提携 coalition)
複数のプレイヤーが協力を目的として形成する集団のこと.

定義 (戦略 strategy)
さまざまな状況、局面に応じてプレイヤーが選択する行動計画のこと.

定義 (利得 payoff)
プレイヤーの選好順序を数値化したもの.効用に等しい.

定義 (ゲームのルール)
ゲームに参加するプレイヤーの集合、プレイヤーの目的、選択可能な行動の集合、および、ゲームのプレイの進行を定めるさまざまな規定の総称.

定義 (情報完備ゲーム game with complete information)
ゲームに参加する全てのプレイヤーがゲームのルールを完全に知っていて、全てのプレイヤーが他のプレイヤーもゲームのルールを完全に知っていることを相互に認識し合っているゲームのこと.

定義 (共通知識 common knowledge)
情報完備ゲームにおけるゲームのルールのことをプレイヤーの共通知識という.





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平成23年5月2日