
ラファージュ(Lafarge S.A.)は、1833年にフランスで創業された石灰・セメント製造企業を起源とし、20世紀後半には世界最大のセメントメーカーへと成長したフランスの建材大手である。長きにわたりパリに本社を構え、1919年の株式会社化以来、フランス資本市場を代表する産業企業のひとつであり続けた。しかし、2015年、スイスのセメント大手ホルシム(Holcim)との対等合併によりラファージュホルシム(LafargeHolcim)が誕生し、独立企業としてのラファージュはその歴史に一区切りを迎えた。統合会社は2021年にホルシム・グループ(Holcim Group)へと改称され、現在のラファージュはホルシム・グループ傘下のブランド・事業部門という位置付けにある。
ラファージュの起源は1833年、フランス南部アルデーシュ県ル・テイユ(Le Teil)において、ジョゼフ=オーギュスト・パヴァン・ド・ラファージュ(Joseph-Auguste Pavin de Lafarge)が、家族の所有地であったモン・サン=ヴィクトールの石灰岩鉱床を活用する形で石灰製造事業を興したことに遡る。リヨンとマルセイユのほぼ中間に位置するこの地の石灰岩は良質な水硬性石灰の原料となり、同社はまず建築用石灰の生産者として事業基盤を築いた。1864年には最初の大規模な国際案件として、スエズ運河建設向けに石灰10万トン超を供給する契約を獲得し、これが同社にとって初の海外進出であると同時に、アルジェリアにおける事業展開の端緒ともなった(このアルジェリア事業は同国独立時の1962年に一時中断されている)。1884年、シリア系実業家ポール・ダエールが経営に加わり、自身の海運業と統合したことで事業基盤はさらに拡大し、第一次世界大戦の頃には同社は世界最大級の石灰生産者となっていた。1887年にはル・テイユ近郊にセメント専門としては世界初となる研究所を開設し、技術面でも先駆的な地位を占めるようになった。
1919年、同社は「ソシエテ・アノニム・デ・ショー・エ・シマン・ド・ラファージュ・エ・デュ・テイユ」として株式会社化され、その4年後にはパリ証券取引所に上場した。第二次世界大戦前のセメント不足期を境に、事業の主軸は石灰からセメントへと移行し、同社はフランス国内市場における最大手としての地位を確立した。スイスのホルダーバンク(Holderbank、後のホルシム)や、複数の英国企業が合併して成立したブルー・サークル(Blue Circle、旧称アソシエイテッド・ポートランド・セメント・マニュファクチャラーズ)を主要な競合としつつ、同社は1947年頃には「シマン・ラファージュ」の名で知られる存在となり、カナダおよびブラジルへの展開に着手した。1956年には北米向け事業としてラファージュ・セメント・オブ・ノースアメリカを設立し、以後カナダに複数の子会社を設けるなど、北米・南米市場での足場を固めていった。
1980年、ラファージュはベルギーの石炭・コークス・肥料企業コペー(Coppée)と合併し、ラファージュ・コペー(Lafarge Coppée)として再編された。この合併により事業領域は石炭・コークス・肥料分野にも一時的に拡大した。翌1981年には北米市場でのプレゼンス強化を狙い、カナダ・セメント・ラファージュを通じて米ゼネラル・ポートランド社を買収し、1983年にはゼネラル・ポートランドとカナダ・セメント・ラファージュを統合したラファージュ・コーポレーションがニューヨーク証券取引所に上場した。1980年代から1990年代にかけて、同社はサブサハラ・アフリカや東アフリカ、さらには中国、インド、韓国といった新興市場への本格展開を進め、名実ともにグローバル企業へと変貌を遂げた。1989年にはスイスの産業複合企業セメンティア(Cementia)を買収し、これによりスペイン、オーストリア、インド洋地域、東南アジアへの足がかりを得た。1997年には英国の骨材大手レッドランド(Redland plc)を買収して骨材事業を強化し、1999年にはウガンダのヒマ・セメント(Hima Cement)全株式取得によりアフリカでの地歩を固めるとともに、インドではタタ・スチールのセメント事業を取得して同国市場に参入した。
2001年、当時世界第2位のセメントメーカーであったラファージュは、当時世界第6位であった英国のブルー・サークル・インダストリーズを約76億ドルで買収した。この買収により、ラファージュは名実ともに世界最大のセメントメーカーへと躍り出た。同年にはインドでレイモンド・セメント施設も取得し、インド市場での事業基盤をさらに強化した。2006年には、ラファージュ・ノース・アメリカの株主が親会社ラファージュ・グループからの30億ドル規模の株式公開買付けを受け入れ、これにより北米子会社はニューヨーク証券取引所から上場廃止となり、親会社による完全子会社化が実現した。
2007年12月、ラファージュはエジプトのオラスコム・コンストラクション・インダストリーズからオラスコム・セメント・グループの買収を発表し、翌2008年に取得を完了した。オラスコム・セメントはエジプト、アルジェリア、アラブ首長国連邦、イラクをはじめとする中東・地中海地域で首位級の地位を占める企業であり、この買収によりラファージュは同地域における最大手としての立場を固めるとともに、かつて独立から中断していたアルジェリア事業への本格復帰も果たした。同じ2008年には、インドのラーセン・アンド・トゥブロ社からレディーミクストコンクリート事業を3億4900万ドルで取得するなど、新興国市場での拡大を継続した。この時期、シリアにおいてもラファージュ・セメント・シリア(Lafarge Cement Syria、LCS)を通じて北部ジャラビーヤ地域にセメント工場を操業しており、これが後年、同社の歴史における最大級の不祥事の舞台となる。
2013年から2014年にかけて、ラファージュおよび子会社LCSは、シリア内戦下で操業を継続するための代償として、国際テロ組織に指定されているイスラム国(ISIS)、および。ヌスラ戦線(al-Nusrah Front、ANF)に対し、合計約560万ユーロ(約650万ドル)の金銭を支払っていたことが後に判明した。この支払いは、従業員の誘拐や工場襲撃を回避し、あわせて同地域で競合していたトルコ産セメント輸入業者への妨害を目的として行われたとされ、これによりLCSは約7030万ドルの売上を得ていた。2022年10月18日、ラファージュおよびLCSは米国司法省に対し、外国テロ組織への物質的支援を共謀した罪状について有罪を認め、刑事罰金9078万ドルと没収687万ドルを合わせた総額約7億7800万ドルの支払いに応じた。これは企業に対するテロ資金供与関連の起訴としては米国史上初の事例であり、同時に同種の罰金としては過去最大規模となった。その後フランス国内でも刑事訴追が続けられ、2026年4月13日、パリの裁判所はラファージュの最高経営責任者や上級副社長を含む幹部6名、およびシリア人の仲介者2名について、テロ資金供与および国際制裁違反の罪で有罪判決を言い渡した。被告らには懲役18か月から7年の刑と、総額569万5000ユーロ(約670万ドル)の罰金が科された。
2014年に発表された合併計画に基づき、2015年7月10日、ラファージュはスイスの競合企業ホルシムと対等合併を完了し、統合会社ラファージュホルシム(LafargeHolcim)が発足した。この合併は総額でおよそ400億から600億ドル規模と評価される取引であり、統合により誕生したラファージュホルシムは、世界最大の建材メーカーとしての地位を得た。統合会社の本社はスイスに置かれ、それまでパリを本拠としてきたラファージュという独立企業としての歴史は、この合併をもって事実上終了した。統合直後の時点で、旧ラファージュは113のセメント工場と42の粉砕工場を56か国に展開し、従業員数は6万3000人を超える規模に達していたとされる。
2021年、ラファージュホルシムはホルシム・グループ(Holcim Group)へと社名を変更した。この改称以降、「ラファージュ」の名称は独立した企業体としてではなく、ホルシム・グループ傘下の事業ブランドおよび各国法人の名称として存続する形となっている。2025年には、ホルシム・グループの北米事業が完全分離・独立上場する形でアムライズ(Amrize)として再編されるという大規模な事業再編が行われた。ホルシム株主の99.75%の賛成を得たこのスピンオフは同年6月23日に完了し、旧ホルシム北米部門はアムライズとしてニューヨーク証券取引所およびスイス証券取引所(SIX)に「AMRZ」のティッカーで新規上場した。この再編により、北米市場における旧ラファージュ・旧ホルシム両ブランドの資産は、欧州・アフリカ・中東・アジアを中心とするホルシム・グループ本体から切り離される形となった。2026年8月時点において、ラファージュはホルシム・グループの傘下でセメント、骨材、コンクリート事業を担う中核ブランドとして存続しており、シリア事件をめぐる法的手続きも係属を続けている。ホルシム・グループ自体の時価総額は、2025年10月時点でおよそ507億ドルと評価されており、世界の建材業界において依然として最大級の規模を有する企業グループの一角を占めている。
第1版:2026-08-29.
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